High time
□三文ゴシップ
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派手な包帯男を匿って二週間が経った。男は朝と一緒にふらりと出て行けば、夜と一緒に帰ってくる。一体男は何者なのだろう。
私はといえば、男の監視以外はいつものように過ごしている。変わったところと言えば、夜食を屯所で食べなくなった。
「飯はここで食え。いつ逃げるかわからねェからな」
毎日、夜食二人分。しばらく作ってこなかったせいか、腕が鈍ったらしい。男に「不味いな」と言われてしまった。飯が不味いという理由で殺されては堪らない。柄にもなく練習をした。
三週間が経とうしたある夜、窓の下に広がるネオン輝く町々を眺めて男は言った。
「こんなもん全部嘘っぱちさ」
「華やかで素敵じゃないですか」
「お前ェには、そう見えるか」
醒め切った顔を私に向ける。私は何故だか途端に悲しくなってしまい、男に近づいた。男の手が私の顎を掴む。
「何だ。接吻でもしてェのか」
「あなたにはどう見えるんですか」
「何も見えねェよ」
「おかしい」
「イかれた人生さ」
「やっぱり!」
「何だと?」
今日の夜はなんだか湿気ているから、髪がしっとり濡れている。男は私のそれを柔く触りながら言った。
「明日、飯はいらねェ。ちィと出かけてくる」
それから、私の片口に顔を押し込めた。男の髪も濡れていた。
「逃げるんじゃねェぞ。逃げたら殺す」
「逃げませんよ」