High Time
□HOLGA
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その眼に俺を映してほしい。作戦はない。決定がない。規定ばかりで決定がない。
「その手を退かして」
「嫌でさあ」
彼女の視界を両手で遮って、そのあとは、どうするか。特に考えてない。
彼女は頭がおかしいと俺は踏んでいる。眼に映したもの全てを彼女は好きになる。何でだろう。
「沖田さんしつこいですよ」
「しつこさが武器」
もし俺がこの手を退けたとして、彼女の視界は途端に開く。その視界にまず最初に映るのは、どこか古ぼけた屯所の庭で、彼女はそれを好きになるんだろう。その次は何を映す。
「どうせあんたは俺なんか映しちゃくれねえんだ」
「何言ってんですか沖田さん、解放しなさい」
「じゃあ手放したら、俺を見てくだせえよ。あんたの視界に俺が映らないと何の意味もなねえ。価値だってねえ。なあ、お願いしやす。見てくだせえよ」
「わかった。見る。見るから放しなさい」
それからゆっくり俺は手を退けて、彼女は眼を瞑ったまま俺の方に向き直ってから徐々に俺を視界に映す。この妙にどきどきする感覚が堪らない。
「見ましたよ。か弱いハートは折れましたか?」
「もうそりゃあぼっきりと」
枯らしはしないよ
寒いから戸を閉めて炬燵に入っておやすみなさい