High Time

□愛と憎しみの二面性に於いて
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「う」と声を小さく漏らし、高杉は達してしまった。軽い虚脱感よりも上回る彼女に対する愛しさが、また自分の中をいっぱいいっぱいにしてくれる。

「動くかい?」

「いや、動かねェ」

彼女の鎖骨辺りを人差し指と中指の二本でやんわりと押すと喉から「ひゅう」という小さな音が聞こえた。

「まだ起きてるかい」

口元に自分の耳を近づけて囁く。小さい寂しさがちくりと自分の胸を刺した。俺はどうにもできない。そう考えながら見下ろす彼女の体は白くて冷たくて寒々しい。表情なんてものもあったもんじゃない。

彼女の鎖骨辺りで止まっていた指先が、そのまま体の中心をなぞらえて下へ下へと降りていく。途中触れた乳房が硬かったことに何故か気持が昂った。胸元を覆う着物を少しずり下げて露わになった胸をしばし、じっと眺めることにした。

よく動く目玉に、よく喋る口。煩わしくもあったかが好きでもいた。じっと閉じられている彼女の瞼はとても重そうで、誰がこじ開けようとも、びくともしない感じがした。

冷たい乳房に触る。やっぱりそれは硬くて高杉は不思議で仕方なかった。不思議で仕方なくて高杉は触っていたそれに口づけた。口から伝わる冷たさは自身の全てが凍ってしまうんじゃないのかと錯覚するほどだった。感じる感覚までもが不思議だった。

柔らかい口づけから本格的な愛撫になりかけた頃、高杉は急に恥ずかしさが込み上げてきた。胸元から顔を離し、着物を直す。寝かせていた彼女を起き上がらせて壁に寄りかからせる形で落ち着かせる。ちっとも動かない彼女を前にして、戸惑った。

俺は一体これをどうしたいというんだ。そもそもまたこれを拾ってきたのが全ての原因のようにも思える。なぜ俺はこれを拾ってきた。

理由なんて簡単だ。俺はこれが好きだったから。本当の本当に好きだったから拾ってきたんさ。重くてどうしようもないお前をおぶって連れてきてやったさ。だけど、どうだ。お前はちっとも動きやしねえ。礼も言わねえ。でけェ馬鹿女だ。

頬を引っ叩いてやる。赤く腫れもしない頬を見て、やっぱり俺にはこいつをどうしようもできないと悲しみにくれながら、ぎゅっと強く抱きしめた。そんな、ありえない話。



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