High time

□この意味に気づいてる
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「ここから見る民家は小さいなあ」

「どうしたの」

「センチメンタルに浸って、いる」

依然として雨足が引く様子は見えなかった。

私たちは電車の扉左右を占領して窓の外を、いつものように覗き込む。後ろに流れる景色が思ったより早くて気持ち悪くなった。

「フィリピーナ発見」

「見えるわけ?」

「サンコン並にな」

「誰、それ」

「知らないか」と言って、また視線を外に戻してしまった。私もそれに続いて視線を戻す。

「何だか雨の日の電車は悲しくなるね」

「人も少ないしな」

「それはこれが下りだからだよ。私が言ってるのはそういうことじゃない」

「何だよ」

「しけった車内の空気がしけった気分にさせるってことだよ」

それを聞けば北島はため息を吐いて目を瞑ってしまった。

電車の揺れる振動が痛いくらいに私の脳天に響いてきた頃、北島に目を向けた。手すりに寄りかかって寝ている姿を見つめる。何だか不安になってきた。横で流れ続ける色の悪い景色が相まって余計、この不安を助長させる。

もし、この景色が流れる速さで時間が過ぎてしまったら、どうしよう。いや、時間が止まってはくれないから景色はこんなに速く流れるのか。どっちにしろ、とても嫌だった。

「ねえ、起きてよ」

返事はない。私は電車の揺れにあわせて彼の目の前に行く。

「電車ん中で動くな」

「起きてって」

ゆっくりと北島は目を開けた。それから大きくてごつごつした左手はゆっくり私の頬を包んで、もう片方の右手を腰にあてられる。キスされると思った。

「目開けてろよ」

「え?」

瞬間、開けた目を彼は体温とは違う熱い舌で舐めた。

「晴れてきたな」

「あ、」

晴れた景色を見たら全部どうでもよくなってしまった。不安なんてそんなものなんだろうか。

「もうやめてよ」

「次は動脈」の一言を私は聞き逃さない。



Live is
Summer Night







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