High Time
□みんなの秘密
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私の大好きな芭蕉さんが中々構ってくれないのでお買い物に出かけた。ずうっと中に居ないで外に出るのも中々良きことかな。
行く当てがない。それでもいい。多分何かが起こる事に間違いはないと思うから。
芭蕉さんが私なんか眼中にないのはよく分かっている。でもそれで良いと思ってるの。恋に恋してる私だから。
「こんな所で何してるんですか」
「あ、色男」
「やめて下さい。何度も言ってるじゃないですか」
しゃがんで座っている彼は裾を払いながら立ち上がり私の所へやってきて、私の髪を掴むとそれをただただ見つめているだけだった。
「まだ、恋に恋してますか」
「違うわよ、私は芭蕉さんに恋してるの」
「そんな事言って。もうやめたらどうです」
曽良君は微かに笑っていた。少しそれが嫌だったけど仕方がないかもしれない。私に顔を近づけながら喋る曽良君は私が嫌な顔をしている。どうせなら優しい芭蕉さんの顔が良い。曽良君はまた薄く笑いながら私に言った。
「おかしいですね」
「何が」
「あなたは芭蕉さんが好きで、僕はあなたが好き」
「それが面白いの?」
「いいえ、何も面白くありません。ただ、憎らしいだけです」
そう言って彼は私にキスをした。あまりに貪るようなキスだったから少し声が漏れてしまった。その声を聞いた途端、曽良君は一旦唇を離したかと思ったら、まるで「にやり」とでも言うような顔をして、また私に唇を這わした。
こんなことしていたって誰も私達を褒めてくれる訳でもないし、蔑む訳でもない。じゃあ何をしてくれるかと言ったら、そんなの何もないのだ。こんな能書きを垂れている私だけれど、これに何の他意もない。
「嗚呼」
だめだ、
世界は私を連れていってくれない
「もうちょっとキスしていましょう」