High Time

□嗚呼、素晴らしき愛と夢
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面がない天井がない掴めないゆらゆらの中で。
これまた形にならない形が緩やかに僕の眼前でゆれる。
感覚のぼやけすぎた指先に妹子は一生懸命頭を使ってイメージする。

手を伸ばしてみてもなかなか形にならないそれは、とても自由な動きで水の様に不規則かつ規則的な…それでいて一瞬しか動きを停止出来ない像に苛立ちを感じ、

「はっきりしろー!」
と叫んだ。

粒子が形を持ち、目の前に成される。
「……太子?」
呼ばれた人物は自分の手に伸ばされた指先を包むように乗せて、笑った。
「太子?」
呼び掛けられても言葉を閉ざしたままにこりと笑いじっと妹子を見つめる。
「どうして何も言わないんですか。」
その時周りを取り囲んでいた背景を透明で純粋な青が一気に彼等の視界を遮った後、映る、景色が、変わり。
あやふやだった感覚ははっきりと物体の自覚を余儀なくさせられる程、鮮明だった。一言、太子の手は温かかった。ふと突風が吹き瞼を閉じ、開ければ二人はお花畑にいた。
「ここは、どこだ……?」
色んな香りが鼻をかすめる。妹子はそこに確実に存在しているはずなのにそこではないどこかにいるような意識であった。
「太子、ここは何処ですかね?」
「ここはここだよ、私がいる場所がお前のいる場所だ。」

「え………初めて喋った、ていうか意味がさっぱり分かんないんですけど……」いつもの雰囲気と違う太子に驚きと戸惑いを隠せない。というかそれ以外の反応を僕は思いつかなかった。

そんな妹子に構わずやはりにこにこ笑い続けるばかりでそれ以上は何も言う気がないようだ。
妹子はこの太子といいこのお花畑といい何かどこか、綺麗過ぎる気がした。その自然さに不自然さを感じるくらいに、次第に頭痛を覚える。
「た、太子、僕は何だか頭が…」
「妹子は私から離れるなんてことしないよな?」

「は…………?」
噛み合わない上に、歯車が逆回転し始める。みるみるうちに苦痛に歪む太子の顔。
許さない、許されるはずはない、生まれてからずうっと一緒、間に阻むものなんて脆く容易。…言葉なんてもろ刃、障害なんてあったようでなかったようなもの、神様にだって止められはしない、そう、永遠に!

わたしたちはずーーーっと一緒!


「なぁ、そうだろ?妹子。」


頭に鳴り響いて止まない、これは。
鋭く、注意で脳内をえぐる。
あぁ、そうかこれは。
「妹子?」

「はい。」
なーーーーーーーんて!
言うと思いましたか。
「あんたはあのアホ太子じゃない、誰なんだ、一体。」

太子は一瞬固まり反論する。
「な、青いジャージ、立ち振る舞い、なによりこの顔が全ての証明、この私以外有り得「いつも気持ち悪いんですけど今日は特に気持ち悪いです、カレー臭くないし、ダジャレとか変な僕の妄想の話しないし。してほしい訳じゃないけど。」
「な、…………………」
「この手を離して下さい、少なくともあなたなんかにはにぎってほしくありません。」

ぶつっ。
コードが抜けて電源が落ちたように。
目の前の太子(ぽいもの)は消えた。手に、温もりなどなかった。





…………ぱち。
「い、いもこおぉぉおお!!」

……僕の目の前に、いる、太子はそう叫んだ。
「私の愛の力が勝利した!」

ふはははーと笑い反り返る
どうやら本物のアホ太子のようだ。
安堵もつかの間で入れ代わり不安が押し寄せた。

「え、今なんか、た、太子……僕に、何を……」
「うっふっふふー。聞きたい?」

いい年した大人が満開の笑みで、とんでもないくらいにかわいこぶったもんだから僕の右ストレートは青い標的に繰り出されるばかりだった。



嗚呼、
素晴らしき







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