うらみち

□rain.
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雨音

地面を叩く雫

容赦なく

君の体に

降り注ぐ雨

頼むから

そんな顔しないで










―rain.










深夜0時。

受付け業務の残業を終わらせて外に出たら。

降りしきる雨の中、ずぶ濡れのユイナさんが立ってた。

空を見上げて、直立不動。

その光景にあまりにも驚いて

しばらく立ったままで見とれてしまった。

だって、あまりにも綺麗だったから。

どれくらいそうしていただろうか。

しばらくすると彼女がこっちに気付いた。


『あ、イルカ先生だ。』

「え、と、あ、こんばんは。」


こんばんは、じゃないだろう俺。

残念ながら俺も傘を持ってきていない。

慌ててばしゃばしゃと水しぶきをたてながら

君に近付いた。

足元で、泥が、跳ねる。


「風邪、引きますよ。」


気の利いた行動も出来ずに

(上着とか、ないし、)

駆け寄って声を掛ける。

するとユイナさんはにこりと笑って


『雨が上がるの待ってるんです。』


そう言った。

意味はわかる。けど、理由がわからない。

とにかく風邪ひくからと


「それなら屋根のある場所で・・・。」


ユイナさんの腕を掴んで引っ張る。


『いいんです、ここで。』


どうして、そんな悲しそうに笑うんだ。


「・・・死にたいんですか。」


その腕は酷く冷たくて氷のよう。

いつからここに?

雨が二人の間を横切って落ちていく。


『虹を見たくて。』


死にたくはありません、そう言ってまた笑う。

もう、わけがわからない。

今は夜。

虹なんか――

普段あんなに楽しそうに笑う君が

どうして。


―あの人に、ふられたのだろうか


醜い俺の思考を

雨音が掻き消す。

降りしきる水滴が体温を下げていく。

なんだか胸が苦しくなって

ユイナさんの小さな体を思い切り抱きしめた。


『イルカ先生、苦しい。』

「俺もです。」


濡れた衣服がペタリと肌に張り付く。

冷たい。

嫌がる素振りも見せない君に

余計胸が苦しくなる。


『雨、止むかな。』


俺の胸の中で

ポツリと言った彼女の声

消え入りそうな程に儚くて

止みますよ、きっと、

それだけ言って抱きしめる腕を強めた。


『ほんとは、イルカ先生を待ってたの。』

「…気付いてましたよ。」


静かに泣き出した君が

ごめんなさいと呟いた。







君はあの人が好きで。

俺は君が好き。

失った恋に

傷付いても

誰にも縋れない君が。

そんな時だけ

俺を利用しようとするユイナさんが。

俺は、本当に好きなんだ。

歪んでるのは俺だ。

君じゃないよ。

君じゃない。


「ユイナさん、虹は太陽がないと見れないんですよ。」

冷たくなった彼女の髪をそっと撫でる。

わかってる、わかってるのよ、と震える声が胸に響いた。


けれど俺なら、きっと君の太陽になれるのに。

でも俺じゃ、駄目なんだ。駄目なんだ。


いつも言い掛けては押し殺してきた俺の願望は、

今夜も俺の中で、燻って消えていくだけ。

明日になれば二人元通りになって、俺は一人雨の中。

零れ落ちた涙を

雨で隠して。

どうか、君が世界一の幸せを手に入れるようにと

祈っています。

祈ってますから。









冷たい雨が
君の悲しみを
流すといい。

俺はそれを
全て掬って
君を想うよ。








end.
 

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