めいん2
□暴君エレジィ
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よく持ってるわね、アンタ達
酒の席で言われるのはその類の台詞で。
私も思う、それ。頷くと呆れた様子でわかってるなら達が悪いんじゃない?と溜め息まじり。
久しぶりの飲み会。同僚や仕事場の先輩後輩入り乱れたその会は、佳境時に入っている。意味のない会話も、お互いのツレの愚痴だったり、仕事の話だったり、旦那のダメなトコロを並べて爆笑するアノヒトもソノヒトも。みんな楽しそうだ。
あーたまには息抜きもいいよね、なんて後ろに反り返ったら、トン、と何かが手に当たった。
周りの空気がぎょっとしたものに変わる。嫌な予感に冷や汗。背筋が凍る。
「何してんの」
振り返ったら無表情のカカシが立ってた。
「あ、お借りしてまーす」
物凄い社交辞令の笑顔でその場の何人かが挨拶した。殆どがそそくさと視線を外して知らん振りだ。酷い、助けてよ。
「帰るヨ」
ぐい、と問答無用で腕を掴まれて意図も簡単に立たされる。まだ、お酒残ってるのに!
『あの、カカシ、もうちょっとだけ』
「なに?」
その目付きはまるで任務先で見るかのような殺気に満ちたもので。こわ!助けを求めた視界の端で、中忍の子が隣同士抱きついた姿勢のまま震えてるのが見えた。
「アキノ、また明日ね〜」
(お気の毒様・・・)引きつった顔がそう言ってる。同僚達に手を伸ばすけど、カカシに引っ張られて虚しく宙を掴むだけだった。あ〜〜〜折角久しぶりに羽伸ばしてたのに〜〜〜〜。
ズルズルと引き摺られたまま、店先を出る。あ、お金・・・と財布を捜す仕草をしてたら、カカシがオレが出しておいたと振り向きもせずに言った。あ、さいですか・・・。
『あ、の、ちょっと、カカシ。任務の期間って明後日までじゃなかったっけ?』
結構力の入ったカカシの手を振りほどこうとなんとか体を捩るがビクともしない。暫く道を進んで、誰もいないような暗がりになってやっと手を離してくれた。
「そーだったケド、急いで終わらせてきた」
お怒りの様子でぼそぼそとしゃべる。さすが上忍はたけカカシ様、長期任務を短縮させるとか私達しがない忍には出来ない事を平然とやってのけるッ!そこにシビれる!あこがれるゥ!
「ふざけてんの?」
やっば、余計怒らせちゃった。まだお酒が残ってるから・・・ゴメンナサイと謝ると鼻で笑われました。あ、すごい、惨めな気分。
はたけカカシは物凄い暴君らしい。
そんな噂を知ったのは、憧れの人に告白してOKもらっちゃった後だったのよ。
私ね、あのね、ゴシップとか、得意じゃないし詳しくないし、噂とか興味ないからね、全然知らなかったのよ。
涙目でその噂を教えてくれた同僚に、無言で手を合わせられた。いやまだ逝ってないよ。
「まあ、がんばんなさい・・・」
『え、そんなに?そんなになの?』
まさかOK貰えるとは思わなかったけど、まさかまさかそんな噂あるなんて知らなかったし・・・。どうりであんまり女の影ないわけだ。私がOKもらえたのも、そういう事なのかしらん。
付き合って一週間でその片鱗を見せ始めた。
門限を守れ、他の男とあまり話すな、男のいる飲み会には行くナのストレートなものから始まり、男と会話する時は目線を合わすナとか、個室に二人きりになったら相手を殺スとかもう意味不明のオンパレード。
オレと一緒にいる時は常に隣にいろとか、ソレ無理じゃない?トイレとかどーするの?(なんとトイレ終わるまで待ってるのよ外で・・・)同僚に愚痴ったら、うわそれコワイって真顔で言われましたよ。
暴君っていうか、コレなんか、アレなんていうんだっけこういうの。束縛系彼氏?とにかく疲れるのですよ。
でも部屋で一緒にくつろいでる時は、たまに優しいんだよね・・・あー私ほだされちゃってるのかな。
「チョット、聞いてるの」
『あ、はいはい、聞いてる』
足早に進むカカシの後ろを慌ててついて行く。突如振り向いて、思いっきり頬を抓られた。
『い、いひゃい!』
「ハイは一回でショ」
ひゃい、と返事をすると満足そうにまた前を向いて歩き出した。はあ、またカカシが長期任務の時に飲みに誘ってもらおう・・・。何時になることやら、カカシはあんまり長期任務を入れたがらないから、きっと遠い先になる。
びりびりする頬を擦りながら、急ぎ足でカカシを追い掛けた。
久しぶりに見たカカシは、やっぱり、かっこよかったりする。
えへ。
なんだかんだ言って、惚れた弱みか。
どこか寂しげに見えるカカシの後姿をそっと見つめた。
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