Kafka Novel

□引退
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「‥‥‥不思議よね。」

 後ろにいるカフカに話し掛けるというよりも、前にある夕日に話し掛けるように、私は言葉を続けた。

「引退したら、最初から最後まで主戦力になれなかった事を悔やむかと思いきや、違うのね。」

 太陽が消えた。
頼りない残光のみが空にある。

「一番にショックだったのは、負けたこと。その次にショックだったのは、部活が終わってしまったこと。もう、みんなと部活が出来ないこと。」

 今度こそ、本当に、私は溜め息を吐いた。
はっきり言って、部活が終わったなんて、実感がわかないし、信じられない。
私の一つの青春が終わったなんて‥‥‥。

「部活は好きか?」

「大好きよ。」

 カフカの問いに即答出来る自分がいた。
あんなにも『辞めたい』と思っていた私の口から、そんな言葉が出るなんて‥‥‥。
ある感情が私の顔に表れようとした時だった。
こつん、と後頭部を小突かれた。
誰がやったなんて、言う必要はない。

「カ〜フ〜カ〜。」

 振り返った私の瞳に写ったのは、部活道具を持ったカフカで、私はそれで小突かれたのだと気付いた。


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