Kafka Novel
□引退
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この高校で屋根の無い渡り廊下は一ヶ所しかない。
私はその渡り廊下の手摺りの上に、両足を外に出して座り込んでいた。
時たま、足をブラブラさせたり、手摺りを掴んでいた手の片や両を離してみたりもした。
冬よりも落ちるのが遅くなった太陽が、未練がましく光を残しながら、山の向こうへ消えていく。
その残光が校舎の壁や運動場、私さえも焔(ホムラ)色に染めていく。
「貴方はイイじゃない。」
私は一つ、溜め息とも深呼吸とも取れない息を吐き出した。
「明日があるんだから。」
「明日がなくては困るだろう?」
あるはずのない返答に、私は肩を飛び跳ねさせた。
真後ろで、りん、と可愛く鈴が鳴る。
その音で確信した―――後ろに誰がいるのか、という事を。
「最後の試合が終わったな。」
「そうね。」
私はぐっと前屈みになって、その人物―――カフカに答えた。
それこそ、手摺りを両手で掴まなければ、落ちてしまうかという程に。
「最も‥‥‥、お前には最初も最後もなかったけどな。」
私はそれに関しては何も答えなかった。
少し間を置いて、私は言葉を吐き出した。