短編
□よみがえる想い
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「ゆえちゃん、早く早く!」
ある日の日曜。
この日は学校がお休みだったから、幼馴染みである樹とお出掛けしていた。
どこに行こうかってなって、ゆえは動物園って言ったのに……。
「何で神宮に行くの? 行ったって今日は海都いないのに」
樹が、子供だけで動物園は危ないからって急遽鈴音を誘う事になった。
別に鈴音は嫌いじゃないからいいんだけど、神宮にはあいつがいるからあまり行きたくないんだけどな……。
「海兄ちゃんじゃなくて、用があるのは鈴兄ちゃんだよ」
「じゃあそのままお店に行けばいいじゃない」
神宮家から程好く離れた住宅街に、それはポツリと看板を掲げている。
『鈴の音』
鈴音が経営する雑貨屋とカフェを混合したお店。
パパに二度程連れて行ってもらった事があるけど、あの鈴音にしては上出来な素敵なお店だった。
「だって今日はお休みで、神宮家にいるよって昨日電話した時ゆってたもん」
「だからって……せっかく広島くんだりして迄来て、あいつの顔みたくない」
「ゆえちゃん」
樹は溜め息を一つつくと、くるりと私の方へ向き直る。
そして少し怒った風な表情で私を見た。
「なんで秋兄ちゃんの事、そこまで嫌うの? そりゃ少し……いや、かなり屈折してる性格だけど僕達には優しいじゃない」
さらりとそう言ってのける樹は天然なのか、はたまた強者なのか……。
「別にあいつの性格がどうのこうのって言ってるんじゃないもん……」
「もう3年も経つんでしょ。いい加減仲直りしたら?」
優しくいい聞かせる様な口調で言ってくる樹。そんな樹に、私は口を尖らせふぃっとそっぽを向いた。
「イヤ。絶対許さない」
そう答えれば、樹は先程より深い溜め息をついた。
「まったく……素直じゃないんだから」