列伝
□堕天使のオルゴール
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暫くして私が泣きやんだあと少年が教えてくれた。
このお店は、私の様な、自分が死んだ事に気付いていない人達がやって来るお店なんだって。
ここにあるオルゴールは、一つ一つ意味がある死者への鎮魂歌。
その死んだ人達が天国へ行くのに必要なモノが、音色として入っているんだって。
私に足りなかったもの。それは【真実】
あの日は私の十五歳の誕生日。
私が死んだ事に気付かず、毎日食べていたあの朝食。あれは、普段全然家に居つかず、家事もした事のない母が、初めて私の為に作ってくれた朝食だった。
父も愛人の家に行ってたんじゃない。一人娘の誕生日のために、明け方まで仕事をしていただけ。
ただ、何かが両親にあったんだろう。本当はせっかくの記念日に喧嘩をしたくなかったはず。だけど、お互いたまっていたものが、久しぶりに顔を合わせて爆発しちゃったんだ。
あの時怒鳴ってしまった事。今更後悔するには少し遅かったみたい。
私、ちゃんと愛されてたんだ。
一人じゃなかった。
両親が僕をわかってくれてなかったんじゃなくて、私が二人をわかってなかっただけ。
少年がいった【真実】。それは確かに私の欲していたものだった。
私が欲しかったもの。それは父さんと母さんに愛されているという【真実】。
一人じゃないという証拠。
ただ、少し……気付くのが遅かったけど……。
でも、でもね。一生知らないでいるより、どんな形であれ、二人の気持ちが少しでもわかったから、私幸せだよ。
いい人生だった、とは言えないけど。でも父さんと母さんの子供として生まれてこれたことは誇りに思う。
人は一人じゃない。生まれてすぐに抱きしめてくれる人がいる。
死ぬときが一人でも、泣いてくれる人がいる。それで十分。
私は忘れない。もう二度と。