列伝
□堕天使のオルゴール
5ページ/7ページ
そんな私の耳に届いた、一つの怒鳴り声。
『父さんも母さんももういい加減にして! 帰ってくれば喧嘩、顔をあわせれば怒鳴りあって!』
この声は私。悲痛な、訴え。
『今日は私の誕生日なんだよ? なのに何でそんな日くらい仲良くしてくれないのっ?』
両親も何か言っている様だけれど、何故か、私には自分の声だけしか耳に届かなかった。
『もういい! 父さんも母さんも大嫌いッ! 二人とも死んじゃえっっ』
そう聴こえた後、リビングから飛び出してくる私の姿。その顔は涙で濡れていた。
「っ?」
もう一人の私は、私の身体を通り抜けて行って、玄関から外へと出た。
「まッ、待って!」
私も後を追い、外へと出る。すると、丁度門の前に、立ち尽くした私がいた。その顔はある一方へ、驚愕の表情を向けていた。
私が自分に手を伸ばした瞬間、突然何か大きな物が自分の身体事前を通り過ぎていった。
大きな、急ブレーキの音と共に。
「う……そ……」
私の身体を持っていったのは、大きなトラックだった。急ブレーキをかけた反動で車体が持ちあがったのか、反転してアスファルトの上に転がっていた。
そして、それから数十メートル先に、まるで玩具の人形の様に、道端に寝そべった私の身体が……。
そうか……そうだったんだ。
私、あの日……。
視界が真っ白な光に覆われ、その眩しさに、私は目を閉じた。
次に目を開いた時、私はまたあの店に戻っていた。目の前には相変わらず無愛想な少年と、今にも泣き出しそうな青年がいた。
「思い……出したか?」
私は涙でぐしゃぐしゃになった顔で、こくりと小さく頷いた。