けいおん!SS
□ある夏の日に
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突然、律が足を止める。
見上げると一軒の家の前に来ていた。
「着いたよ!」
「うん……」
そういえば、律の家に行くのはこれが初めてかもしれない。
引き戸が印象に残る、和の色の強い家だった。
リビングに通され丈の低いテーブルの脇に用意された座布団に座った。
律はキッチンに入ってスイカの用意をし始めた。
自分の家とは違う空気に緊張しながらも、ぐるり、視線を巡らす。
木目が品良く見えるダークブラウンのテーブルの上にかけられたテーブルクロス。
それにかわいらしい手作りとおぼしき刺繍がされた座布団。
和風の家に合うように気配りもされていてよりよく見えた。
そのどれもが律のイメージと離れているのにどこか連想させるように感じる。
お母さんがこういった趣味を持っているんだろうか、それは是非お話してみたい、なんて妄想を膨らませる。
しかし、残念なことに家の中に私と律の気配以外なかった。出かけているのだろうか。
さらに視線を巡らせると、窓辺に作られた小さなスペースに写真たてがたくさん並べてあるのが目に入った。
こんな風に人の家をじろじろ見回すのはあまり品がいいとは言えないが、当の律がキッチンにはいったまま出てこないのだから仕方ない。
立ち上がって写真たてに近づくと、律の笑顔がそこにはたくさんあった。
今よりもっと小さい頃。家庭用のプールに浸かって楽しそうにカメラにピースサイン。
幼稚園の時の運動会だろうか、1位のは他の前で胸を張っている写真もあった。
その中でも、とびっきりの笑顔を向けている写真があった。
小さな、生まれたての赤ちゃんと一緒に笑っている写真。
手に取ってみる。
すると、先ほどまで鳴っていた食器や戸棚をひっかき回すような、格闘しているらしい音が止み、律がキッチンから姿を現した。
「ごめんごめんー! スプーンがなかなか見つからなくてさ……あ」
「……弟?」
写真を見せつつ笑うと、律は少し顔を曇らせてうん、と答えた。
写真の中の律はこんなにすてきな笑顔を浮かべているのに、目の前の律はなぜ、こんな表情を浮かべているのだろうと何か引っかかった。
「律ちゃん?」
「さー、とりあえずスイカ食べようぜ!」
さっきまでの空気を振り払うようにして律は手に持っていたお皿一杯のスイカを私に見せるようにして持ち上げた。
何か無理をしていることはわかったが、律の気持ちを汲んでそのままテーブルに着いた。
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