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□近くて遠い君よ
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『近くて遠い君よ』
「……節子さんだぁ」
渋谷の大きな街角スクリーンいっぱいに節子さんが歌っている姿が映し出される。
手の届く場所にいたはずなのに、今はスクリーン越しでしか見ることができない。
−全ては私が選んだこと……−
振り切って行こうとしたら、それまで全然耳に入ってこなかった歌が飛び込んできた。
−遠い空にいる君よ、元気にしていますか?
私は今もあなたを待っている。
君への思いは今も変わらず、あの小さな部屋で交わした愛は今でも忘れない。
遠い空にいる君よ、泣いてはいませんか?
私はそれだけが心配です。
それだけが−
歌が、終わった。
新しい女の人か男の人かを意識した歌か、なんて疑う余地もなく。
どうしようもないくらいの確信が私の中にあった。
彼女が歌っているのは、私のことだ、と。
同時に目の前の雑踏が視界に入らなくなって、世界に節子さんと私の2人きりになった。
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