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□静かを聞いた
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新緑、そう表現するのが今の景色にぴったりとくるだろう。

青々と葉を茂らせる常緑樹がほどよく日光を森に導く。
それでも陰が落ちた場所からは湿り気を含んだ土のにおいがほどよく感じられた。

夏特有の陰影に飛んだコントラストの中にあって、僕はさっきまで駆けていた足を止めた。

間もなく後ろから鬼がやってくるだろう。

そういうルールだ。

先ほどだって森のどこから捕まった、とのんきな声が聞こえたのだから。


でも、僕は立ち止まった。
立ち止まりたい気持ちになった。


目の前の景色に静けさを感じ取ったから。


蝉はうるさいくらいに鳴いているし、風は葉を揺らしている。
確かに音にあふれている。


でもここには静けさがあった。

心の静寂と言うにはあまりにも激しく、
雑音と言うにはあまりにも巧みだ。

そう、いうなれば、松尾芭蕉のあの詩。
岩に沁み入るとはこういうことか。

適当に聞いていた授業がこんなところで役に立つなんて、と笑って、静寂を乱した。


もうすぐ鬼が来るだろう。
だけどそれまでは。


ここで、静かを聞こう。

(fin.)


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