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□鐘の音
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「ゆかりさん……」
「なぁに、奈々ちゃん」
目の前のかわいい人はテレビを見ながら私に答えて、コタツの上にあるみかんに手を伸ばした。

「……ゆかりさん」
再度の呼びかけに
「なぁに」
みかんの皮をむいて食べ始めたゆかりさんは2度目の呼びかけにようやくこちらを向くと
小憎らしいほどの微笑を私に向けた―



『鐘の音』



今日はゆかりさんの家に来ている。
大晦日ということもあってお仕事は休み、2人そろって年を越したかったからだ。
コタツに入って、みかんを食べて、NHKの紅白を見て。
1年間お疲れ様、今年もよろしく、なんて言って穏やかに終わるはずがいつの間にやらコタツの領土争いになっていた。

私:ゆかりさん=3:7

……これはひどいんじゃ……?

抗議の意味をこめた視線をゆかりさんは軽くいなす。
「今年もいろいろなことがあったねえ」
まるっきり私の抗議を気にかけない発言に困惑しながら
「は、はぁ……」
曖昧にうなづく。
いつも私の話は半分であれ、聞いてくれるはずなんだけど……年越しそばを食べてから全く話を聞いてくれない。
かと思えばいきなり話し出したり……いや、いつものことか。
それでもなんだかゆかりさんはいつもと違っていて、一言で言うなら「落ち着きがない」。
こういうゆかりさんを見るのは初めてだった。
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