negima SS
□first shoot
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それは小さい頃のこと。
本当に些細なきっかけだった。
小さいころ、お父さんに連れられて行った公園で、お父さんがボールを私に渡してくれた。
そのあまりの大きさに渡された瞬間、よろめいたのを覚えている。
『first shoot』
「裕奈にはまだ早かったかな」
「そんなことないわよ」
心配そうに見守るお父さんと、それに大丈夫、と答えるお母さん。
「やってごらん」
「うんっ」
お母さんの一言に突き動かされるようにゴールに対し、ボールを力いっぱい投げた。
しゅっ
「は、入った!」
「おお、すごいぞ、裕奈」
よしよし、と頭をなでてくれるお父さんの手のひら。
小さいころからそれが大好きだった。
でも、それさえも感覚の外であるくらい、私の気持ちは手のひらに残るボールの触感と、ボールが通り抜けたときのネットに対する聴覚に支配されていた。
目の前を見ると、自分よりもはるかに大きなゴールがそびえたっている。
初めて、だった。
初めてボールを持った。
手のひらに触れるつぶつぶが気持ちよかった。
初めてゴールに向かった。
その大きさに圧倒された。
初めてシュートを放った。
偶然が重なり、あたかも必然であるかのごとく奏でられたネットの音は私をバスケの虜にするには十分すぎる威力だった。
この衝動の名前を知っているか?
知っていたら教えてほしい。
自分でもわからないのだから。
だけど、これだけはわかる。
前へ。
もっと。
強く。
今も支配してやまないこの強い気持ちに誰が抗えるだろうか。
そうして続けてきた道は、今なお目の前に通じている気がしてならないんだ。
そして。
小さい頃、ゴールに初めて対したときは1人だった。
今。
今は。
***
「裕奈、いっちょ、かましてやろうぜ」
「インサイドは任せろ。でも、あんまりシュート外すなよー!」
「わかってるって」
仲間の靴からのキール音が頼もしく思えてならない。
これからコートで、1つのボールをめぐって起こるドラマが楽しみでならない。
「……さぁ、行こうか」
(fin.)
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