短編

□Temptation
2ページ/3ページ

アレンの家の前をウロウロすること数刻。こうしていても埒が明かないのでオレは決心してアレンに謝ることに決めた。とは言え、どうしたらいいのか分からない。まずどんな顔をして彼に会えばいいのだろう。

「…っ悩んでてもしょうがねぇ!」

アレンの家のドアノブに手を掛けた瞬間だった。扉が開き、現れたのは勿論だが若干不機嫌そうなアレン。言おうとしていた言葉が全て頭から吹っ飛んで声にならぬ声で口をパクパクとさせるばかりのオレ。アレンは溜め息を吐いて言った。

「とりあえず入れよ。ずっと窓からお前がオレ様の家の前を一時間ほどウロウロしてるの見てたんだからな」

アレンの後を追って一階の店舗に入る。一番に目に飛び込んできたのは昨夜縛っていた手首に貼られた湿布だった。美容師である彼に取って手は商売道具であり、命ともいえる。それなのにオレはなんてことをしてしまったのだろう。

「で、お前はオレ様に何の用…って、何で泣いてるんだ…!?」
「だって…オレ、お前に酷いことを…しちまった…っ悪い…」

カッコ悪いが涙が止まらない。こう謝ろうとか考えていたのなんてもう頭の中にはなかった。ただ「悪かった」と。それだけしか出てこなかった。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ