短編

□シューティンスターに手を振った
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流れ星に願い事をすれば叶う。どんな願い事だって3回唱えれば誰かが叶えてくれるのだと信じてやまなかった。あの頃の俺たちはこの世界のことを何一つ知らなかったのだから。

「あ、流れ星」

濃紺に浸食されていく淡く燃えるような夕焼け空。その一帯を指差して瑠加は呟いた。当然もうその先には何もない。瑠加が残念そうに「願い事すりゃあよかったな」なんてふて腐れるものだから俺は思わず吹き出した。

「瑠加、流れ星に願い事って…俺達もう子供じゃないんだから」
「お前だって昔は言ってたじゃねぇか、あの頃何お願いしたっけな」
「さあね、もう覚えてない」
「まあ10年以上前の話だしな。いちいち覚えてなくて当然か」
「でも昔、こうして一緒に帰ってたことは覚えてるよ」
「俺も俺も、遅くまで寄り道して遊んで…怒られたよなぁ」

足音が、一つ消えた。振り返ってみれば瑠加が何とも言えない顔で俯いていて先程の発言を思い返す。ああ、あの時に俺達を怒っていたのは瑠加のお母さんで…その時にはもう…。

「何で止まってるの、早く帰ろう。今日はうちに泊まるんだろ」

あてもなく宙をさ迷う瑠加の手をとるとじっとりと湿っていた。余程まずいことを口にしたと後悔していたのだろう。2つの足音がすっかり暗くなった夜道に響く。いつの間にか掴んでいただけのはずの俺の手に瑠加の指が絡められて、ここが人通りの少ない道でよかった。俺は空を見上げる。

「流れ星、もっかい流れねぇかな」
「何をお願いするつもりだったんだ」
「ん、ああ、早くあの三宮の屋敷とおさらばできますようにって…」
「そっか、出来たら…いいな」
「他人事じゃねぇよ、その時は勿論お前も一緒にだぜ。カイリ」

再び視界の角で星屑が短い孤を描いた気がしたが、俺には何も言わず瑠加の手を強く握り返すことしかできなかった。

(シューティンスター、さようなら、きっと叶わぬ願い事)

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