短編
□Kiss
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※完璧に妄想なフライングです
腕に出来た傷に白い綿が触れる度に顔をしかめていれば目の前のアーサーは自分に反して苦笑気味でただただ手を動かしていた。
「訓練に対する集中力がずば抜けているのははダグくんのいいところだと思いますが、周りが見えなくなるのはよろしくありませんね」
そう言いながら汚れた綿を新しいものに変える。じわりと染み込む消毒液でほんの一回り小さくなったそれはまるで自分だ。大好きな彼に心配をかけて…こんな顔をさせてしまって。自然と膝を抱える腕に力がこもって「まだ消毒は終わってませんよ」とやんわりと叱る声が頭上から降ってきた。素直に怪我をした腕を差し出せばアーサーはそこに綿をぽんぽんと押し当てた。ピリピリと小さな電流が走るようなそんな痛み。若干胸の痛みにも似たそれにどんどん自分の顔が曇っていくのがわかる。これ以上こんな顔をしてはまたアーサーに心配をかけてしまう。そう思っているとアーサーがふと名前を呼んだ。
「痛いの痛いの飛んで行けって知ってます?」
「え…」
「怪我をした時に親が子供にしているあれですよ」
「そのくらい知ってル、けどサ」
「ふふ、私も昔はよく母にしてもらったんですよ。懐かしいです」
「それがどうしたんダ?」
アーサーがピンセットをカタリと救急箱におく。そしてふっと微笑むと俺の腕をとって消毒したばかりの傷口に唇を落とした。
「Kiss it better.」
「え…えええええエ!?な、なにするんダ!!アーサー!!」
「外国の痛いの痛いの飛んで行けです」
「キ…なんて言ったんダ?」
「Kiss it better.です。意味はキスして治してあげましょう、でしたかね…治りましたか?」
「別のとこが痛くなったゾ」
「おや、それは困りましたね…どこです?」
「〜〜〜っ心臓!!」
バクバクと音を立てる心臓を押さえつけるように胸を押さえてそう言えばアーサーは「それは大変ですね」と俺の胸に服越しに口付けた。腕の痛みもちくちくと胸を刺す痛みもいつの間にか消えて。
「っ…変態」
「これも治療です」
「…アーサー、ありがとナ」
「いえいえ、では手当も終わったことですし、食事にでもしましょうか」
「おう!」
俺はきれいに手当てされた腕の傷にちょっとだけ微笑んで台所に向かうアーサーを追いかけた。
(ほんとはあなたの言葉が何よりの特効薬だなんて言えなくて、でもいつかきっと)