短編

□Sign
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穏やかな休日の昼下がり。台所に並んだ二人、小さな家いっぱいに広がるのは身も心も癒すハーブの香り。その香りとは相反してオレは妙に苛立っていた。野菜を切る手を止めて溜め息を一つ。

「何であんたってそんななんだよ」

自分の口からつい零れた言葉にハッとなって隣を見れば手を止めたセルカが首を傾げていた。また苛立ちが募るのを感じて舌打ちしてしまう。でも一番嫌いなのはこんな苛立ちをわかってくれないセルカではなくて…。

「あ、あの…私、何かニール様に酷いことをしてしまいましたか…」
「っ…そういうのが、やだっつってんだよ…わかれよばか」
「え…?」
「何でもねぇよ、オレの独り言だから忘れてくれ。続き作るぞ」

行き場をなくして握っていた手を解いて野菜を切る作業に戻る。セルカはオロオロとした風だったがすぐに作業に戻った。シュミットに仕える立場のセルカにとって誰かの世話をするのが当たり前なのはわかっている。それだけど恋人の自分の家にまできて世話をやきだすのは些か不満だ。今日だって家に来ていきなり洗濯し始めて料理だってオレが作るって言ったのに「なら一緒にしましょうか」なんて。違う違う、オレがしたいのはこんなんじゃなくて…もっとこう…。素直にセルカに言えないもどかしさとわかってくれない辛さで募る苛立ちにオレは何度目かの溜め息を吐いた。恋人同士というのは一体何なのだろう、そう考えるのはもう一度や二度じゃないんだ。このままで幸せ?幸せって何だろう?
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