短編

□Bathroom
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立ち込める湯気。無機質で一定な床をたたき付ける水音だけの響く空間はある意味静寂と言っても過言ではない。その静寂にわって入った扉の開く音にオレは鏡の曇りを手で拭った。そこに映ったのは浴室なのに服も着たままのニール。ニールは何も答えない。相変わらずシャワーの床を叩く水音だけが浴室に響き渡っていた。強く肩を掴まれ浴室の壁に押し付けられる。そしてそのまま噛み付くかのようなキス。歯が微かにぶつかったのもお構いなし。咥内を探る舌は上顎を舐め、歯列をなぞり、そしてオレの舌を追い回す。絡め取られれば最後、思考まで絡め取られてオレはズルズルと力無く浴室の床に座り込んだ。

「っ…は、ぁ…ニール…?」

ニールはオレの首筋に顔を埋めた。その間も出しっぱなしのシャワーがオレ達に降り注ぐ。ニールの髪や着ていた長袖のシャツがひたひたと彼の肌に張り付いていく。それをぼんやりと眺めていたらいきなり自分の自身を掴まれてビクリと身体が跳ねた。何がしたいのか分からない。しかしニールを無理矢理引きはがす必要性は全く感じられなかったのでオレは彼の首に腕を回した。浴室に響くのは水音、そしてそこへ微かに混ざる吐息。それは確かな熱を孕んで立ち込めた湯気の中に溶けて消えた。
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