短編

□Longing
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※未来捏造。トニ、ナルクが20歳くらい成長してます注意。





昔は大人が羨ましかった。夜遅くに出歩いても怒られないし、お酒は飲めるし、子供には教えられない秘密だらけだし。

「んー…思い浮かばねぇや」
「新しい組み立て図?」
「そ、なんかこう斬新なの作りてぇんだけど…上手くいかねぇの」
「珍しいね、はい、オムライス」
「さんきゅー!やっぱこういう時はナルクのオムライスに限るぜ!」

実際なってみて変わったのはただただ自由が減っていくのと確かに子供には教えられないドロドロとした大人の事情が増えていくという現実、あとお酒が飲めるようになったことくらいだろう。オレはオムライスをスプーンで一口。線のいっぱい引かれた汚い紙を見ながらそれを咀嚼した。いい案の代わりに頭に浮かんでくるのは母親の「早くいい人見つけなよ」って一言だ。ああナルクが女なら迷わず嫁にもらうのになんて下らないことを考えているうちに四口目を嚥下していた。

「わあーいい食べっぷり、でも全然太らないよねぇトニってば。もしかして全部筋肉になってるのかな」
「………お前、それオレが筋肉馬鹿だっていいたいのかよ」
「違う違う。ただ単に羨ましいだけだよ、嫌味なんてつもりない」
「ならいいけど…お前だってもう十分痩せたじゃんか」
「まあね、あの時はダイエットに付き合ってくれてほんとにありがとう」
「別に構わねぇって。オレたち親友なんだからそのくらい当然」

そう言った瞬間にナルクが口を閉じた。長いこと一緒にいるのだからナルクに何かしら引っ掛かるものがあったのだろうということはすぐに分かる。しかし自分の今の発言に全く落ち度が見つかりそうにはなかった。

「ボク、トニのこと好きだよ」

しばしの沈黙。七口目あたりを嚥下したところでようやっと口を開いたナルクはそう言った。いまさら何をと「オレも好きだよ」と返せば溜め息を一つ吐かれてしまう。

「多分ボクの好きとトニの好きは違うだろうね。ううん、違うよ」
「友達以外に何があるんだ?」
「恋愛対象」
「は…?」
「だからね、ボクは先約させてほしいんだよ。トニのここを、ね」

空いていた左手をそっと綺麗な白い指に絡め取られる。そのあまりにも自然過ぎる流れに呆気に取られているとナルクの孤を描いた唇がオレの左手の薬指に触れた。離れてから初めて自分がされたこととナルクのさっきの言葉の意味を察して途端にオレは顔が熱くなる。

「今、指に…キ、キスし…っ!?」
「うん、したよ。それだけで真っ赤になるなんて可愛いね、トニは」
「ば…馬鹿…何言って…」
「ボクはずっとトニのことが好きだったんだ。だからここにボクからの指輪を嵌めたいな…だめかな」
「っ…こ、このエセ王子!!」

カタリと乾いた音を立てて机に落ちたスプーン。オレはその音にはっとなり慌ててナルクの部屋を飛び出した。唇の触れた左手の薬指が熱い。高鳴る鼓動は走れば走るほどに更に速くなる。大人とは何なのだろう、子供とは一体。ただ一つだけ、今日さっき分かったことはナルクと自分の関係がもう子供ではいられないということだった。

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