短編

□Kitchen
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台所、BGMは自分の好きなバンドの曲、自分の鼻歌。トントンとリズムよく刻まれた野菜たちは鍋の中へと消えていく。

「ごめんね、急にお邪魔してご飯までご馳走になっちゃって」

「何か手伝おうか」とロッドが聞いてきたのでオレは必要ないとだけ答えてコショウを鍋に振り入れた。独特の匂いが鼻腔を擽り、腹の虫が喚き出すのも時間の問題。あとは煮込むだけと火を弱火にしてオレは皿洗いに取り掛かった。

「お皿洗いくらい手伝うよ?」
「いいんだってば。お前はそこで座って待ってりゃいい」
「………なんか」
「ん?」
「なんか、新婚さんみたい」

うっかり落としかけた皿がガチャリと音を立てる。

「ば…っばかか!何、急に恥ずかしいこと言い出してんだよ!」
「えへへ、だってエプロン姿のニールがボクにご飯作ってくれてるんだよ。しかもボク座って待ってるだけだし」
「新婚て…第一、男同士じゃ結婚なんて出来ね…ひゃっ?!」

いきなり肌を這い出した指先。堪らず声をあげてしまい横目で後方を睨みつけるとオレのすぐ後ろにロッドがいた。

「おい…何してんだよ」
「新婚さんごっこ?」
「じゃなくて!何で服の中に手ぇ突っ込む必要があるんだよ!」
「台所では男の夢でしょ」

そういって笑うロッドは肉食獣の目で…。オレはそっとコンロの火を消した。たぶん逃れられないのがわかっていたから。
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