短編

□Adult
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年をとればとるほどに恋愛が難しいと感じるようになった。感じ始めたのはいつからだったかもう分からないけれどたぶん酒を飲むようになる頃には散々同期の仲間と恋愛について語らっていた。

「あー…喉いたぁ…」

喉の痛みに耐えながら呟いた独り言はすっかり掠れて誰の耳にも届かない。オレはこの年にもなって一人暮らししている辛さをひしひしと感じた。この風邪の原因は昨日だ。町の子供にせがまれて魚釣りを教えてやろうとしたオレに謝って足を滑らせて川に落ちてしまった。なんせこの薄着だ。案の定風邪をひいたオレは一人ベッドの中で咳込むばかり。そういえば朝から何も食べていない。起き上がるのが怠くて当然病院にも行けていない。ああ、たぶん病院に行けば間違いなく彼に叱られるのだろう。

「全く…この年になって釣りをしていて川に落ちるなんて信じられん」

そうそう、こんな感じに。

「………って、クローゼ!?ぅ…ごほっごほっ…な、なんで!?」
「いつも大した用もないくせにわたしの所へやってくるキミがやって来なかったからな、何かあるとは思っていたが」
「川に落ちたことは?」
「子供たちがうちに来た。キミが風邪をひいているのだろうと酷く落ち込んでいたぞ。後で謝る必要があるだろうな」
「そうか…子供に心配かけちゃったとはおっちゃんもダメだなぁ」

そういって起き上がろうとすれば額に手の平を宛てられそのままベッドに戻される。その手の冷たさに昔からよくいう手の冷たいやつは心が温かいとかいう迷信を思い出しくだらないと一蹴した。

「今日はこのまま安静にしていることだ。この町に医者はわたししかいないのだからキミの面倒ばかり見ているわけにはいかないのだよ」

そういいながら来てくれた。その言葉を飲み込んでオレは頷いた。確か彼には妻と子供がいる。それなのに、と思った瞬間に過去の酒盛りの光景が頭の中に浮かび品のない笑い声の中で声がした。

「結局さぁ、難しいこと考えても仕方がないんだよね。人を好きになるのは自然なことであとはそれを受け入れて片思いでも恋愛は恋愛なんだからさ。そこからどうするかはそいつ次第だけど」

それは自分の声だった。

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