Honey*Rabbit
□I am…
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視点:入江一葉
――………
徳川さんと修さんのもとから走り去って来たわたし。
だけど……
『……何だか戻りづらいかも』
わたしは人気の無い宿所の裏まで無我夢中で走って来ていた。
(やっぱりあのまま……いつも通りで居たほうが良かったのかな?)
少し落ち着こうと近場の木陰にまで移動した。
日の光が直接当たらないだけで、日向とは違う、ひんやりとした涼しさを肌で感じられた。
何なんだろう……不思議と胸がキュンと切なくなるようなこの気持ち。
一緒にいるだけで自然を笑顔になれたり、その一言に思わず恥ずかしくなったり、嬉しさを感じたり……わたしを自然とそうさせるのは"あの人"には容易いことだった。
徳川さんに会いたくなかったわけじゃない。
修さんに抱きつかれたのが嫌だったわけじゃない。
自分でしか理解できないのに、自分じゃ理解できない矛盾した気持ち。
『……こんな自分が…嫌だ……』
グルグルを渦巻いた感情のまま、わたしは空を仰ぎ見た。
*****
「……一葉」
『っ……』
わたしの肩がピクッと小さく震えた。
そっと名を呼ぶ優しい声音が聞こえた。
空から視線を外し、それを徐に声の主に移した。