Honey*Rabbit
□人生初の言葉
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視点:入江一葉
『……ふう……っ』
今日は自主練習をしていた為、普段より練習時間を延ばしたから流石に身体に疲れがきたかもしれない。
(そういえばここに着た当初に、良くこの練習についていけるなぁ、って驚かれたこともあったな……)
わたしはセンターコートを借り、足元にテニスボールの入った籠を置き、一人でひたすらサーブを打つ練習をしていた。
ここのセンターコートは徳川さん曰く、トップクラスの選手のみが使用できるとのことなので、恐縮しつつも使用させてもらっている。
(前に鬼さんも使っていたから多分5番コート以上の人のみなのかな?)
わたしは置いておいたテニスボールを入れていた籠に、自分が打ったボールを拾い集めて中に入れ、もとの場所に仕舞った。
それから先にレストランで夕食を済ませ、部屋に戻り入浴して身体をさっぱりさせた。
わたしは髪をドライヤーで乾かしていた。
(……暑い)
今日は少し湯船に長く浸かりすぎたかも知れない。
わたしは風呂上りの上気した身体を少し夜風で涼めようと、施設の外に出た。
*****
外に出てみると、外灯と月明かりがほど良く道を照らし、夜風が冷たくも優しく頬を撫でた。
今日は晴れていたおかげで空も澄んでおり、もともと目は良いせいかもしれないけれど、遠くにある数え切れないほどの星も綺麗に見ることができた。
(ん?ボールの音……?)
静寂の中、耳を澄ましてみるとボールを打つ音が聞こえてきた。
わたしはゆっくりとした足取りでその音がする方へ自然と引き寄せられるように歩いていた。
*****
(え?徳川さん……?)
そこにいたのは紛れもない徳川さんだった。
外灯の照明だけが頼りの中、彼は坦々と、夕方のわたしと同じようにサーブをコートに打ち付けていた。
そのフォームはわたしから見れば申し分ない位に綺麗だった。
『すごい……』
わたしの小さな呟きに気付いたのか否か、徳川さんは手を休めるとわたしの方に視線を送った。
わたしは、そんな徳川さんのもとへ走って行った。