Honey*Rabbit
□トライフル
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視点:矢野琉斗
―――……
「おい、まじかよ」
「……ありえねぇ」
「圧倒的過ぎる……!!」
「はぁ…はぁ……っ」
何なんだ、この女は……!?
1番コートに所属しているらしいが、相手は所詮女。
こんなの楽勝で俺が1番コートに昇格できる。
その甘い考えこそが、大きな落とし穴となった。
―"ゲームセット ウォンバイ入江 6-1!!"
『終わり……ですね』
「くっ……!」
目の前にいる女、入江一葉はそうじゃなかった。
俺が最初の1ゲーム取れた理由、それは入江一葉の"様子見"の一言で済まされた。
それに試合前とは違う、射るような鋭く冷たい瞳に恐怖を覚えた。
試合前までの入江一葉は何処にいった!?
目にも止まらぬ速さで打たれるサーブ。
軽快な無駄の無いステップ。
左右のコーナーギリギリに返される正確なリターン。
ノーバウンドの華麗なボレー。
相手の不意をうつようなタイミングで狙ってくる、高速回転のかけられたイレギュラーバウンドの強力なスマッシュ。
パワーはないものの、テクニックで上手く補っている。
どれを取っても他の選手より格段に上だった。
特に目立つ技も仕掛けてこなかったものの、その全てに俺は成す術も無く立ち尽くしていた。
そう、完全に俺は……
「一葉に"翻弄"されているね」
「―!」
コートの外には、さっきまではいなかった3番コートの入江さんが面白そうに見物していた。
「一葉の継続的な得意技の一種でね。コート上で完全に相手を翻弄……つまり弄ぶんだよ。付けられた名も"トライフル"。矢野君はその技にまんまと引っかかってたわけ」
周りにいる他の選手達も、この試合に息を呑み、釘付けになって見ていた。