Honey*Rabbit
□互いが想うはあの子
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視点:徳川カズヤ
一葉が走り去って行ってしまった後、残された俺と種ヶ島さんはその場に数秒間立ち尽くしていた。
「なぁ、徳川」
その場の空気を絶つように、先に口を開いたのは種ヶ島さんだ。
「何ですか」
そしていつもの陽気な彼とは違い、やたらと神妙な態度で俺を見据えた。
「本気なん?」
「……と言いますと」
その時、何故か俺には種ヶ島さんが言いたいことが分かってしまった。
だが、本当に"その事"だという確証が持てないため、俺は問いに対し、同じく問いで返した。
「お前は見てて分かり易い奴っちゃ。好きなんやろ、一葉の事」
予測していたはずなのに、実際に聞かれると俺は思わず息を呑まずには居られなかった。
「はい」
だが、自分の答えはすんなりと出た。
それはこの気持ちに気付いたからなのか、それとも……彼に渡したくないからなのか。
種ヶ島さんは俺に"分かり易い"と言ったが、俺から見れば種ヶ島さんも明らかに一葉に好意を持っているのは知っていた。
「俺も好きやねん、一葉の事」
坦々と告げられた種ヶ島さんの発言に驚きはしなかったが、そう言った彼の表情はどこか哀愁に満ちているように伺えた。
「ま、俺が聞きたかったのはそれだけや。さっき俺が言ったことは独り言だと思って聞き流してええで」
彼はそう言うと、徐に踵を返し、俺に背を向けながら手を振り、コートとは逆の方向へ歩いていった。
互いが想うはあの子
何故種ヶ島さんがそういう表情をするのか、俺には理解出来なかった。
(……頭を切り替えよう。今は練習に集中しなければ)