Honey*Rabbit
□懐かれた
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視点:入江一葉
夕食を摂った後、わたしは部屋に戻るとふかふかのベッドにゆっくりと寝そべった。
(兄さんだけじゃなく、徳川さんからもデザート貰っちゃった……後で何かお礼しなくちゃ)
最初の彼の印象は正直言って、"人にも自分にも厳しくて、冷たくて、プライドの凄く高い人"だった。
だけど実際の彼はきっと優しくて暖かい人なんじゃないかって、さっき思ったの。
(だってほら、デザートくれたし……?)
それに出会ったばかりよりも、表情が少しだけ穏やかになっていた。
少なからず、嫌われたわけではないのかもしれない。
と言っても、今日会ったばかりなので何とも上手く表現出来ない。
『……シャワー浴びようかな』
そう思いたつと、ベッドから降り、着替えの準備をしてユニットバスルームに向かった。
*****
『ふぅ……』
お風呂をあがると、薄桃色のネグリジェに着替え、タオルを首にかけながら、濡れた髪の水分を優しく拭った。
現在の時刻は午後の9時半。
10月下旬といえど、夜と早朝は冷え込んでいる。
だけど部屋の中は丁度良い温度で設定されているようで過ごしやすい。
わたしはホットミルクを飲もうと、部屋にある小さなIHコンロを借り、鍋に入れた牛乳を温め始めた。
と、その時にわたしは気づいた。
『はちみつ、家に忘れてきちゃった……』
毎晩眠る前にホットミルクを飲むわたしはいつも、はちみつを淹れてから飲むのが日課だった。
(後で許可貰えたら近場まで買いに行こうかな?)
トントン
そんな事を考えていると、部屋の外から控えめなノックが聞こえた。
一先ずIHコンロのスイッチを止め、ドアを開けに行った。
*****
ガチャ
『はい』
ドアを開けて確認すると、そこには徳川さんが立っていた。
『どうかしましたか、徳川さん?』
「お前の兄がこれをお前に渡せと言ってきたから届けにきた」
そう言って徳川さんから手渡されたのは、わたしのお気に入りのメーカーである、ピンクのラベルの貼られたはちみつの入った小瓶だった。
(流石兄さんといった所かな。タイミングが良すぎるもん。)
『ありがとうございます徳川さん。無くて困っていたのですごく助かりました』
わたしはそれを受け取るとニコリと彼に向かって微笑んだ。
「……それじゃ俺は戻る」
用件だけ済ますと、徳川さんは踵を返して部屋に戻ろうと背を向けた。
『ま、待ってください…!』
折角だからもっとお話したい、仲良くなりたい。
わたしはそんな彼の手をぎゅっと握り締めた。