Honey*Rabbit
□人生初の言葉
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視点:入江一葉
「どうしてこんな時間に外に出ているんだ?」
その口調は責めるようなものではなく、ただ問いかけるように優しかった。
『その……ちょっとだけ涼もうと思いまして』
「……そうか」
"お風呂で温まりすぎちゃいました"と両手で頬を押さえながら言うと、徳川さんは微笑した。
いつもは周りの人達に冷静かつ無愛想に振舞っている徳川さん。
だけど、そんな優しい表情をしてくれる彼といると、何だかすごく安心する。
だからわたしも自然と笑顔になれる。
「……一葉」
徳川さんはもとから硬い表情に加え急に真面目な表情をし、その切れ長の目でわたしを見据えた。
『は、い……』
その雰囲気に飲まれるように、わたしは彼と向き合い、小さく返事をした。
「お前が俺のことをどう思っているかなんて分からない。だが俺は……一葉のことが好きだ」
『え……?』
聞き間違いだろうか。
"一葉のことが好きだ"
徳川さんの口から静かに発せられた言葉に、わたしの頭の中は一瞬真っ白になった。
(からかってるの……?)
と一瞬不安を感じたが、徳川さん真っ直ぐな瞳を見る限り、そんな風には感じ取れなかった。
『あ、あの、わたし……っ』
きっと今のわたしの顔は林檎並みに真っ赤なんじゃないかって位に身体が熱い。
想定外の出来事で慌てつつ動揺してしまう。
徳川さんはそんなわたしの様子を見かねてか、わたしの頭に手を置いて一撫でした。
「驚かせてすまなかった。だがこれは俺の本心だ。その……もし返事を聞かせてもらえるなら、後で構わない」
徳川さんは優しい口調でそう告げるとそのままラケットを持ってロッカールームの方へと去っていった。
わたしはそんな彼の大きな背中を呆然と見つめていた。