第二幕

□13.CROSS
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消えた少女について、エメリーはあまり長い時間考え続けることはできなかった。

OWL試験に向けて熱っぽい雰囲気が蔓延し、ほかの事を聞けない空気ができあがってきたからだ。


先生方は宿題を出すことをやめ、教科書を進めることがなくなった。

どのクラスでも最後の追い込みがなされ、試験に出題されそうな呪文や魔術を、繰り返し練習することに時間が費やされていた。



「だ、だめだ……僕、もう終わりだよ……」



ピーターはこのところずっとこんな感じだ。

もともと試験前はナーバスになりがちだったのに、先日マクゴナガル先生に「1年生の教科書をおさらいしなさい」と言われたことで、すっかり自信をなくしてしまっていた。



『大丈夫よ。まだあと1週間あるわ。一緒にがんばろ』



エメリーはピーターを励ましながら、丸い顔につながる太い首を盗み見た。

イースター休暇が終わって2週間経つが、構内で殺人未遂があったという話は一切耳にしない。

あんなに気にしていたセブルスでさえ、あの子を探すのはぴたりとやめてしまったようだった。



『やっぱり夢だったのかな』



血がつながっているかもしれない人が突然ホグワーツに現れるなんて、そんな虫のいい話があるはずがない。

やがてエメリーは、全部何かの間違いだったんだと思うようになった。



「変な夢でも見たの?」

『ううん、なんでもない。たぶんちょっと、おかしくなっちゃったみたい』



試験を目前に控え、学校には“ちょっとおかしくなる生徒”が続出していた。

談話室では常に唸り声がきこえてくるし、他寮では全科目落第する夢を見てから不眠症になり、マダム・ポンフリーのお世話になっている人もいるらしい。

あのジェームズたちも、借りてきた猫のように大人しくしている。


その代わり彼らは、5年生と7年生相手に怪しい商品を紹介し、秘密裏に流通させることに面白みを見出していた。

先週は“眠気覚ましに役立つ”と銘打った強烈な下剤を、その前は“脳を活性化させる魔法”と銘打った頭を大きくする呪文を流行らせて、マクゴナガル先生に大目玉をくらっていた。



「――誰から買ったか言いなさい!」



魔法生物飼育学のクラスから帰る途中、エメリーはリリーがレイブンクロー生から怪しい粉薬を没収しているところに出くわした。



『また試験対策の薬?』

「ええそうよ。“頭が良くなる薬”ですって」

『ええすごい』

「だろ?それがたったの5ガリオンだぜ」

「私には、動くたびに頭がカラカラと“良く鳴る”薬のどこにそんな価値があるのかわからないわね」



リリーは粉薬を男子生徒に返しながら、昨日同じものを没収してスラグホーン先生に見せた結果何を言われたのかを話した。

レイブンクロー生は5ガリオンをドブに捨てたことを知って青ざめ、ジェームズから買ったことを白状した。

「やっぱりね」とリリーがため息をついた。



「あの人たち、自分たちの能力を見せびらかすことに夢中で、被害にあった生徒の大事な時間を奪っていることに気づかないのよ。やめるよう言ったと思う?”僕ならそんなに必死に頑張らなくても優が取れると思うけどなぁ”ですって!」



リリーはグリフィンドールとレイブンクローから減点した後、マクゴナガル先生に報告すると言って階段を上っていった。



『えっと……飲む前でよかったね』

「ああ……うん……少しはね……」



エメリーは魔法薬調合の練習もしておかなければいけないことを思い出し、薬を撒いて捨てる生徒と別れて地下牢教室へ向かった。

セブルスや、あわよくばレギュラスに会って、あの子のことが聞ければという下心もあった。



『いないかぁ』



教室は無人だった。

しかし肩を落として鍋の温度を一定に保つ練習をしていると、廊下を通りかかったマルシベールたちが入ってきて、この間は悪かったと森での出来事を謝ってきた。




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