第二幕
□02.ひだまりに落雷
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6月が近づくと、エメリーはリリーと一緒に宿題をする時間が増えた。
忙しくなるという話をしてから、レギュラスの姿を見かけることはほとんどない。
試合が終わってからも図書館に現れることはなく、たまに手紙が届く程度だ。
(もしかして夜にいるのかな?)
エメリーは夜しか暇がないと言っていた去年のことを思い出し、夕食後に図書館を覗いてみた。
(いた)
レギュラスは人のまばらな図書館で壁際の席に座って勉強していた。
ずいぶん疲れているようだった。
エメリーが来たことにも気づかず、熱心に本を読みふけっている。
書くものもなく邪魔するのも悪いので、近くの歴史書を取ってきてレギュラスが読み終えるのを待つことにした。
(ゴーストとも手紙のやりとりができればいいのに)
レイブンクロー憑きのゴーストにはまだ会えていない。
寮生にしか会ってくれないとか、決まった時間にしか現れないとか、ヘレナにはいろいろ噂があって、何が原因で会えないのかもわからない。
パーティの大広間では見かけるのだが、みんなの前で秘密の話をするわけにもいかず、遠くから眺めることしかできなかった。
「閉館です」
司書の声が図書館に流れた。
本を戻すついでについたての反対側に目をやると、黒い頭が机の上で組んだ腕に乗っていた。
『レギュラス、閉館だって』
起きる気配がないので、声をかけて肩を揺すってみる。
レギュラスは唸りながら目を開けた。
が、それがやっとのようだった。
『行こ、怒られちゃう』
エメリーは机に置かれた荷物をまとめ、レギュラスの腕を引いた。
目を擦りながら立ち上がったレギュラスはまだ眠そうで、足元もおぼつかない。
図書館を出てもぼーっとした状態が続き、エメリーが何を話してもあいまいな返事しかしなかった。
『そっちじゃないよ』
大広間に向かおうとするレギュラスを引きとめ、エメリーは近場の絵画にスリザリン寮の場所を聞いた。
立ったままでも眠れそうな状態のレギュラスが、このまま1人で寮まで戻れるとはとても思えない。
『ここから階段だから気をつけてね』
「戻りたくないです……」
『どうして?ルームメイトと喧嘩でもしたの?』
「離れたくない……」
レギュラスがエメリーのローブをきゅっと握った。
同時に、鎧を数体まとめて倒したようなけたたましい音が後方で鳴る。
驚いて振り返ると、遠くの廊下をモップを振り回したフィルチが怒鳴りながら横切っていくのが見えた。
『び、びっくりした……』
「は、はい」
あまりに大きな音にレギュラスも覚醒したようだった。
先ほどまでくっつきそうだった瞼がぱっちり開き、グレーの瞳が皿のようになっている。
「え、あの、僕いま……えっ、いつから……」
『覚えてないの?』
「寝ぼけてたんです。すみません。気にしないでください。えっと、閉館時間になったんですよね?帰りましょう。送ります」
『でも寮に戻りたくないって……何かあったの?』
「あ、その後は聞こえていないんですね。よかった。いやなんでもないです。本当に。大丈夫ですから」
レギュラスは短い言葉を積み重ね、エメリーが持っていた荷物をまとめて受け取った。