第一幕
□12.リーマス・ルーピン(前編)
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ハロウィーンを数日後に控えたある日。
エメリーが寮に戻ってくると、談話室にリーマスの姿があった。
体調が悪いのか、ソファに深く体を預けている。
見るからにだるそうで、顔色も良くない。
「エバンズなら戻ってきていないよ」
きょろきょろと周りを見るエメリーにリーマスが言った。
「ジェームズはクィディッチの練習。シリウスとピーターは散歩」
『あ、特に誰かに用事っていうわけじゃなくて……』
エメリーは図書館で借りてきた本を抱えたままリーマスの隣に座り、顔をのぞきこんだ。
あまり寝れていないのか、目の下にくまができているようにも見える。
こんな状態のリーマスを放って遊びにいくなんて、ちょっとひどい気がする。
『大丈夫?早めに医務室に行ったほうがいいんじゃない?』
「夜になっても治らなかったら、そうするよ」
だから今のうちに宿題をやらなきゃと言って、リーマスは目を擦りながら羽ペンを握った。
まるで最初から治らないことが前提のようだ。
「そういえば、シリウスの弟とは友達になれた?」
『ううん。あれから会ってない』
リーマスが宿題中に雑談をするなんて珍しい。
隣で本を読み始めていたエメリーは顔をあげた。
リーマスの視線は本の表紙に向けられていて、わずかに眉根が寄っている。
リリーがよくしている顔だ。
そのことを指摘すると、「だろうね」と返ってきた。
「エメリーが純血主義になるんじゃないかって心配なんだよ」
『うん、リリーは純血主義が嫌いみたい』
「彼女はマグル生まれだからね」
『でもリリーは頭がいいよ。本にはマグルは劣っているって書いてあるのに……リリーは本当はマグル生まれじゃないんじゃない?』
「本が間違えているんだよ」
『ええっ』
エメリーは驚き、嘘だよと訂正してくれることを祈ってリーマスを見た。
しかしその言葉がリーマスの口から出ることはなく、代わりに「書いてあることを全て鵜呑みにしてはいけない」と追加されてしまう。
本で調べるしかないのに、間違えている可能性もあるなんて困る。
「根拠なんて何もないのに、それでも信じている人達のことを純血主義者っていうんだ。彼らは違う血が混じっているのは忌むべきことだと、本気で思っているんだよ」
『違う、血……』
「そう。彼らにとって実際の人物がどうであるかは二の次なんだ」
『そっか……』
「……エメリーも混血なの?」
うなだれ、黙り込んでしまったエメリーを見て、リーマスが心配そうに聞いた。
エメリーはハッとした。
生まれたときに獣が近くにいたということは、そういうことなのかもしれない。
『たぶん、そう、かもしれない』
「たぶん?あ、孤児なんだっけ?」
『うん……ずっと狼人間なんじゃないかって言われてたんだ』
「……それは違うと思うよ」
リーマスがぼそぼそと何か言ったが、声が小さすぎて聞き取れなかった。
もう一度と頼んでも寂しそうな笑みが返ってくるだけだ。
リーマスはたまにこういう顔をする。
そしてそういうときは絶対に理由を話してくれない。
今回もリーマスがそれ以上何かを言うことはなく、黙々と宿題を続け、夜は宣言通り夕食の席に現れなかった。
(“エメリーも”ってことは、リーマスも混血なのかな?)
1つ欠けた席を見ながら、エメリーはいっそ自分が狼人間だとはっきりしてくれればいいのになとぼんやりと考えた。
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