第一幕
□09.ピーター・ペティグリュー
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あっというまに冬が過ぎ去り、イースターがやってきて、エメリーたちは課題に追われるようになった。
あの事件の後、すぐにリーマスが間に入って仲直りはしていたが、全てが今までどおりというわけにはいかなかった。
取りだてて気まずいということはないものの、なんとなく歯車がずれたような違和感がある状態が続く。
シリウスはあまりエメリーに話しかけなくなり、代わりに他の女の子と一緒にいることが増えた。
ジェームズも以前から興味を示していたクィディッチにのめりこみ、練習があれば必ず見学に行くようになる。
もちろんシリウスとジェームズにも同じ量の課題が課されていたが、2人に言わせれば、効率的にやればたいした時間はかからないとのことだった。
自然と会話は減り、勉強も残されたリーマス、ピーター、リリー、エメリーの4人ですることが多くなる。
リーマスとリリーのペースについていけないピーターとエメリーは、いつも泣き言を言っては一緒に叱られていた。
「エメリー、終わりそう?」
『ううん……もう少し……ピーターは?』
「僕もまだ……あと5センチなんだけど、その5センチが問題なんだよね……」
『それわかる。もう書き尽くしてるんだから1センチだって書けないよね』
「文字を大きくしたらいいのかな?」
『いい案だけど、今からだと変だし、その大きく書く文も思いつかないや』
「うーん……確かにエメリーの言うとおりだね」
ピーターはいつもシリウスたちの後ろについて歩いているだけの大人しい子だと思っていたが、こうして一緒に勉強をするようになり、よくしゃべる子だということがわかった。
5月半ばを過ぎ、試験勉強が大詰めを迎えると、リリーもおしゃべりをする余裕がなくなってきたが、ピーターとの会話が減ることはなかった。
「ねえピーター、そうやって話をしているから進まないんじゃないの?」
「ルーピンの言うとおりよ、エメリー」
「う……」
『黙ってやります……』
リリーとリーマスは普段は優しいのに、2人揃うととたんに厳しくなる。
言っていることが正しいだけに、何も言い返せない。
ピーターとエメリーは口を閉じて教科書とにらめっこを再開した。
「早く終わらせないと夕飯の時間になっちゃうよ」
「うう……先に行ってていいよ、リーマス」
『リリーもリーマスと一緒に行ってて……』
半泣きのエメリーとピーターだけが談話室に取り残されるなんていうこともしょっちゅうだ。
リリーは最初のほうこそ辛抱強く付き合ってくれていたが、それではエメリーのためにならないというリーマスの話を聞き、無駄話をしていたときは置いていくようになった。
それでも優しいリリーは食べ損なう事がないようにと料理を取っておいてくれる。
一方リーマスはとことんスパルタのようだ。
ピーターが食べられなくても自業自得だと一蹴するらしい。
だから取り残されると、ピーターのほうが焦る。
「そうだエメリー、僕、いいこと考えたんだけどさ」
『何なに?』
「お互いのレポートを見せ合って、抜けている部分を書き足せば埋まるんじゃないかな?」
『ピーター頭いい!』
「へへ」
嬉々として見せ合った2人は、すぐにがっくりと肩を落とした。
見事に同じような内容しか書かれていなかった。
「リーマスが見せてくれればな……」
『それじゃ自分のためにならないって、リリーが言ってたよ……』
「リーマスも同じこと言ってた。というかエメリー、ここ、スペル間違えてるよ」
『えっ』
「あとここと、ここと、ここも」
『えー!そんなにあるんじゃ、最初から書き直さなきゃだ……』
「ご飯、先に食べてこようか……」
『うん……』
このままじゃ夕飯を逃すと判断し、エメリーとピーターは揃ってため息をつきながら談話室を出た。
イースター休暇に入ってからは毎日こんなやりとりの繰り返しだった。
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