第一幕
□06.イエス・キリスト
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ホグワーツ一帯が白で覆われ、生徒たちが待ちに待ったクリスマス休暇がやってきた。
多くの生徒はクリスマスを家族と過ごすためにホグワーツを離れる。
リリーを始め、ジェームズ、シリウス、リーマス、ピーター達も例に漏れず全員帰省する。
「エメリー、風邪を引かないようにするのよ」
『うん。リリーも元気でね!』
エメリーは学校に残る。
見送りにきたエメリーとの別れ際、リリーはシリウスに「母親かよ」と茶化されるほどエメリーをホグワーツに残していく事に対してとても心配していた。
「私、なるべく早く帰ってくるようにするわ」
『リリーがいないのは寂しいけど、無理しなくて大丈夫よ。家でゆっくりしてきてね』
「ええ、でも――」
「エメリーは偉いなあ。僕なら1日でも早く再会したいと思うな。2週間もエバンズに会えないだなんて、僕は寂しさのあまり死んでしまいそうだよ」
「うるわいわね、ポッター。そんなことで死ぬわけがないでしょう」
「それって死なないでほしいっていう意味だよね?」
「もうそういうことでいいからどいてちょうだい」
「聞いたかい?シリウス!エバンズが僕を好きだって!」
「……そこまで言っていないわ」
リリーは頬をひくひくさせたが、汽車の発車時間が迫っていたため、それ以上ジェームズの相手をすることはやめた。
「またね」と言ってエメリーをぎゅっと抱きしめる。
「手紙とプレゼントを贈るわ」
『くれるの?嬉しい!』
「当然でしょ。クリスマスを楽しみにしていてね」
『うん!ありがとうリリー、私も贈るね』
エメリーもぎゅーっとリリーに抱きつき返した。
どさくさに紛れてジェームズが混ざろうとしたが、シリウスに首根っこを掴まれて汽車に連れ込まれる。
先にコンパートメントに乗って窓から様子を見ていたリーマスが、2人の姿を見て苦笑いした。
「君達も大変だね。ルームメイトの女の子が恋敵だなんてさ」
「“達”って……俺を一緒にするなリーマス。俺は恋なんてしてねえよ」
「どうだか」
リーマスが肩をすくめると、汽笛がなり、赤い髪を揺らしてリリーが乗り込んできた。
「今の言葉を忘れないでちょうだいね、女たらしのシリウス・ブラック」
「は!?」
「みんな噂しているわ。入学初日からあなたの“女の子のお友達”がどんどん増えているって」
「たかが噂を聞いたくらいで決めつけんな。向こうが勝手に言い寄ってくるだけだ」
「そう。ごめんなさい。でもそういう噂があるってことは覚えておいて。中途半端にエメリーに近づいて巻き込んだら許さないんだから」
「母親の次は父親かよ……」
エメラルドグリーンの瞳とグレーの瞳がぶつかりあう。
険悪なムードにピーターは縮み上がり、コンパートメントの隅で気配を殺した。
仲裁してくれそうなジェームズはリリーがやってきたというのに珍しく大人しく2人のやりとりを見ているし、リーマスは我関せずで窓を開けて外の空気を取り入れている。
再度汽笛が鳴り、どこからか発車を告げる声がした。
『リリー!シリウス!ケンカしちゃダメだよ!あ、リーマス!うん、またね。2人をよろしくねー』
ホームから明るい声がしてリリーとシリウスが振り返ると、開けた窓越しに握手をするエメリーとリーマスの姿があった。
「てめ、リーマス!」
「ちょっとルーピン、あなたまでエメリーにちょっかいださないでちょうだい!」
2人が詰め寄ると、リーマスは涼しい顔をして「僕はただ友人との別れの握手をしただけだよ」と言い、ジェームズが軽快に笑った。
よくやったと言わんばかりにジェームズが笑いながらリーマスの肩を叩く横で、リリーとシリウスの要注意人物リストにR.J.ルーピンの名前が載った。
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