賢者の石
□21.禁じられた森
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朝食の時間、大広間の天井を舞うフクロウの中の1羽によってユイとドラコの元へ1通の手紙が届けられた。
ホグワーツの校章が入っていることをのぞけば、どこにでもあるようなごく普通の白い封筒だ。
「食事中に手紙を読むのはマナー違反だ」というドラコによっておあずけをくらったユイは、急いで朝食のハッシュポテトを掻きこむ。
むせかえる胸を水を飲んで押さえつけ、深呼吸をし、汚さないよう細心の注意を払いながら封を切った。
Ms.モチヅキ
処罰は今夜11時に行われる。
フィルチが待っているから玄関ホールに行くように。 S.S
ユイには読まなくても内容も差出人も分かってはいたが、それでも何度も繰り返し手紙に目を通す。
今夜やろうとしていることを考えると、手紙ひとつにはしゃいでいる場合ではないことは重々承知している。
だが、用件だけが書かれた簡潔な手紙に、どうしても顔が緩んでしまう。
(教授の直筆!しかも名前入り!!)
ここで封を開ける気がないらしいドラコが手紙をしまうのを見て、ユイも丁寧に手紙を封筒に戻し鞄にしまう。
職員席に目を向けると、視線に気づき顔をあげた手紙の送り主と目が合った。
笑って手を振ると、ふっと目線をはずされ、ユイは入学式のことを思い出した。
まだあれから1年もたっていないのだ。
できるようになったことは少ない。
ユイは目を閉じ気を引き締めた。
(どうかこの手紙が、すべてを終わらせるきっかけになる手紙になりますように)
うまくいくとは到底思えないが、それでも願わずにはいられない。
今夜、ヴォルデモートを退けることができたら……。
そのためにはなんだってやる覚悟はある。
「さっきから何考えてるのよ、百面相」
目を開けると眉をよせるパンジーの顔が目の前にあった。
ユイがドラコと2人で夜に寮を抜け出してからパンジーはずっと不機嫌だった。
今も、2人に届いた手紙が気に入らないのだろう。
彼女の気持ちも分からなくはないが、今は人の恋路を心配している場合ではない。
ユイは『なんでもないわ』と答えて席を立った。
少しずつ自分の中に黒い感情が沸きあがってきているのがわかる。
だから、最近よく言われる“スリザリンらしくなってきた”という言葉に、自分でも妙に納得していた。
(ごめんパンジー。私は、目的のためなら手段を選ばない人間なのよ)
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