後日談
□年越しそば
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今年も残すところあと数時間。
マルフォイ家のクリスマスパーティから解放され、今年はゆっくり新年を迎えられそうだと思っていた矢先のこと。
食卓に並んだオートミール用の器が、そう簡単には終わらないとスネイプに示していた。
(気でもふれたか?)
大小2つずつある器の中には、茶色い汁に浸かった灰色の麺だけが入っている。
パスタと呼ぶにはあまりに汁が多く、あまりに色が邪悪だ。
あのネビル・ロングボトムでさえ、パスタを作ろうとしてコレになることはしないだろう。
ましてやキッチンに立つのは元主席のユイ。
スネイプが教えてきた生徒の中でも飛びぬけて優秀だった彼女が、こんな酷い状態のものを平気で出してくるとは思えない。
となるとこれは、彼女の意志によるもの、ということになる。
(……毒を食らえと?)
考えられるのは、スネイプが何かユイの機嫌を損ねることをし、料理で不機嫌さをアピールしてきた、というパターンだ。
正直身に覚えはないが、積もり積もった不満が1年の最後に静かに爆発した可能性は否定しきれない。
しかし器が4つあることが引っかかる。
いくら復讐心に燃えたとしても、彼女が子供たちを道連れにするとも思えない。
(邪悪なのは見た目だけなのか、それとも――)
スネイプは大きな鉤鼻をスープに近づけた。
立ち昇る湯気は白く、危険な香りはしない。
泥か思われた汁も、良く見れば輝き透き通っている。
「あ!まだ食べちゃダメ!」
スネイプが器を手に取ると、銀のトレーを持った長男が慎重に駆け込んできた。
ダンっとテーブルに置かれたトレーには小皿が複数乗っており、それぞれに何か別のものが入っている。
「……ネギ?」
辛うじてわかったのは刻まれたネギだけだった。
他はコーンフレークを小さく丸くしたようなものや、それを大量にまぶした小ぶりのロブスター、その辺で取ってきた草の茎のようなものなど、見たことがあるようでないものが並んでいる。
「僕が盛りつけてあげるね」
「お前も共犯かアークタルス、であれば説明したまえこれはいったい何のつもりだ」
「オソバだよ。オソバ。トシコシソバ」
「……スペルビア、わかるなら説明を代われ」
「日本の食べ物。名前は“ソバ”。“年越し”は1年の最後という意味。翌年の無病息災を願って食べるマグルの風習」
母親に似て説明が致命的に下手くそな長男に代わり、次男が淡々と説明をしていく。
まるで教科書を読み上げるような抑揚のなさではあったが、ようやく合点がいった。
あの日本生まれの少女は、母親になってもまだ気まぐれにマグルの風習を持ち込んでスネイプを振り回すつもりなのだ。
「僕、コクサイハになることにしたんだ」
スネイプのイライラを気にしつつ、アークタルスが小鉢のものを器によそっていく。
いっちょ前に手伝いをしているつもりらしいが、ボロボロこぼすせいで、むしろ仕事は増えているように思える。
「これがエビテンで長生きで、これがカマボコでめでたいで、これがテンカスで……おまけ?」
「我輩がわかるわけなかろう」
「だよね。はい、これが父さんの分」
「……ネギしか乗っていないように見えるが?」
「父さんは草が好きだからサービスだよ」
「嘘をつくな自分が食べたくないだけであろうユイは何をしている」
「オセチ直してる。母さん早くー!父さんが待ちきれないってー!」
「いい加減にしろアークタルス!」
これ以上何を出すつもりなのか。
自分は催促などしていない。
どさくさに紛れてさらにネギを盛るな。
数々の文句が出尽くす前に、ユイがパタパタとやってくる。