後日談
□忘れられた呪い
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闇の帝王が倒れてからもうすぐ2年。
下火になってきたとはいえ、ハリー・ポッターへの注目が消えることはない。
“その日”が近づくにつれ、報道は再び加熱し、あちこちで英雄ハリー・ポッターを称える動きが起こった。
もちろんその動きは“影の英雄”も巻き込み、日々大きくなっていく。
新聞に占める記事の割合が増えるのに比例するように、スネイプの機嫌は日増し悪くなるばかりだ。
以前のスネイプは新聞等で取り上げられること自体は嫌いではなかったはずだし、むしろ得意がっているように見えることもあった。
しかし、先の戦争に関してだけは別だった。
自分が陰ながらハリー・ポッターを支え続けたというハリーの引き立て役のように書かれることも、その理由に触れられることも気に入らないらしい。
(教授のいいところはみんなに知ってほしいんだけどなあ)
散々ユイが言っても聞き入れてもらえなかったことがようやく世間に広まってきているというのに、本人は迷惑そのものといった様子だ。
戦いが終わってすぐの夏休みに学校でのスネイプの様子について記者に聞かれ、ツンデレっぷりをこれでもかと話したことが記事になって大目玉を食らって以降、記事について触れることすらタブーになりつつある。
スネイプが載っている記事を集めるのが最近の趣味だなんてとても言えない。
イースター休暇が終わりに近づいた頃、スネイプはついに、どっさり届く取材申し込みやファンレターをまとめて暖炉に放り込み、窓を閉めてフクロウの侵入を防ぐという暴挙に出た。
あっけにとられるユイの目の前で、いつの間にとりつけたのか、カーテンまで閉められていく。
光までもが遮られ、室内に薄暗い空間ができあがり、スネイプはようやく落ち着いたようだった。
『閉めちゃっていいんですか……?』
スネイプを刺激しないように黙って見ていたユイが静かに聞く。
言葉はなく、睨みだけが返ってきた。
『ど、どうせ余計な手紙しか来ないからいいと思いますっ』
八つ当たりされそうな雰囲気を察し、ユイはスネイプが思っているだろうことに早口で同意した。
(出直したほうがいいかな?)
フンと鼻を鳴らして机に座る様子を見てユイは考えた。
スネイプのいいところでもあり悪いところでもあるのだが、機嫌によって左右される部分が大きい。
余計な衝突を避けるためにも、その見極めは大切だということをユイはこの10年弱で学んでいる。
「外交も大事な校長の仕事じゃよ」と諭すダンブルドアにすら「そこまでの約束はしていない」と突っぱねているスネイプを見て、今は引いたほうがよさそうだと判断した。
(急ぎの用事でも重要なことでもないしね)
ユイは『また夜にきますね』と言い残して校長室を後にした。
*
『散々なイースター休暇ね……』
誰にともなく言い、ユイは自分で頷いた。
イースター休暇は穏やかとは言い難かった。
まず、家に戻ってつかの間の休息。
と思ったところで名前呼びを強要されるという事件が起こった。
そして、難題をクリアしたと思いきや、マルフォイ邸に行ったときにスネイプがルシウスに父上呼びを強要される事態に発展した。
――ユイは条件をクリアしたらしいがセブルスはどうなんだ?結婚はなしということでいいのか?
そう言ったときのルシウスの目は、間違いなくおもちゃを見る目だった。
苦虫を噛み潰したかのような顔で「父上」と呼ぶスネイプの声と、それを聞いて青ざめるドラコの顔はいまだにユイの頭にこびりついている。
結局その場にいる大半の者が耐えられず、急用をでっちあげ、3日間の滞在予定を3時間に短縮して学校に帰ってきた。
「あれは悪夢だった」とドラコからの手紙に書いてあるのを見たとき、ユイは何度も手紙に向かって頷いたものだ。
(説得してくれそうですよって伝えたかったんだけどなあ)
パンジーへの報告を聞いたドラコがルシウスに話したことが原因のため、ドラコは責任を感じているらしかった。
手紙には、「兄上と呼ばれる前に父上に頼んでみる」という内容も書かれていた。
だから安心してほしいとスネイプに言いたかったのだが、あの機嫌の悪さでは、結婚条件の話題を出しただけで緑の光線を出されかねない。
せっかくの休暇なのにとため息をつきながら、ユイは外へ出た。
*