後日談
□呼び名
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休暇をスネイプの家で過ごすようになってしばらくたったある日、ユイはスネイプの書斎に呼ばれた。
改まってなんだろうと首を傾げるユイに向かい、スネイプは封筒を見せた。
「パンジー・パーキンソンからだ」
『誤配達ですか?』
ユイは自分宛の手紙が間違えてスネイプに届いてしまったのかと思った。
しかし、封筒の宛名にはしっかりスネイプの名前が書かれている。
パンジーに何かあったのだろうか――
嫌な予感がした。
「読み上げる」
ユイの不安をよそに、スネイプは封筒から手紙を取り出した。
授業中に教科書を読み上げるときのように、淡々と挨拶や近況報告が読み上げられていく。
1枚目を読み終えたところでスネイプは一呼吸おいてユイを見た。
そして2枚目。
ユイの嫌な予感は、まったく見当違いの方向で現実となった。
こともあろうにパンジーは、ユイに出した“結婚の条件”について、ユイではなくスネイプに結果を聞くという方法を取ったのだ。
「心当たりがあるようですな」
ユイの反応をつぶさに見ていたスネイプは手紙を読み上げるのをやめ、口角をわずかに上げた。
「パーキンソンの冗談かと思ったが――」
『冗談!冗談ですよ!』
「その反応を見る限り事実で間違いなさそうだ」
『うっ……』
しまったと思ったときには時すでに遅し。
スネイプは詮索モードに切り替わっていた。
ハリーやロンを捕まえ、悪戯を自白させるときと同じ目になっている。
『パンジーってば余計なことを……』
「なるほど忘れていたわけではないということですな。我輩に隠し事などできるとでも思ったのかね」
ぼそっと口から漏れ出た言葉をスネイプは聞き逃さなかった。
「君の友人は君のことをよくわかっているようですな。“おそらくユイはこの約束をなかったことにして過ごしているでしょうからスネイプ先生にご報告しておきます”と書かれている」
『隠そうと思ったんじゃなくて、いつものからかいや悪ふざけだと思ったんですよ!』
「複数の者と約束をしておいてかね?」
『複数……?』
ユイの背中に冷たい汗が伝った。
スネイプはどこからかもう1通の手紙を取り出した。
差出人の名前を見なくとも、誰が送ってきたものなのか予想がつく。
パンジーと同じ条件を出してきた人物――クィリナス・クィレルだ。
「ただの嫌がらせかと思い放置していたが、どうやらこちらにも心当たりがあるようですな」
『あ、いや、ですからそれは――』
「こちらも本気で取り合っていなかったとでも?」
『そ、そうです!誰かに反対されても私の意思は変わりません!許してもらえなくても認めてもらえなくても教授と結婚できるならそれでいいんです!』
冷静なときには言えなさそうなことを、ユイは一息でまくし立てた。
言葉に嘘偽りはない。
スネイプの為なら世界中を敵に回すことだってできる。
スネイプはわずかに考えたあと、「一理ある」と呟いた。
「あの男の戯れに付き合ってやる義理もない」
『ですよね!』
「――しかし」
許しを得られたと思いパッと顔を輝かせたユイは、次のスネイプの言葉で笑顔を引きつらせた。
「向こうの言い分にも一理ある」