後日談
□06.新学期始動
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ホグワーツはすっかり元通りになった。
そして今日はいよいよ“ホグワーツ魔法魔術学校”が再始動する日だ。
とびきりの笑顔と、懐かしさと、ほんの少しの哀愁を乗せたホグワーツ特急がホグズミード駅にやってくる。
ボートで湖を渡る新入生と別れ、馬車に乗り込んだ上級生は、同乗者に自分がどの部分を修復したのかを話していた。
これから先、同じようなことが起こらない限り、ずっとホグワーツ城はここにあり続ける。
何百、何千という生徒達がここで学び、ここから巣立っていく。
そんな城の壁や、天井や、廊下の形成に、一部とはいえ自分が関わっているということは何事にも変えがたい名誉だと、口々に言った。
「あの壁――ほらあの部分だよ」
コリン・クリービーが城の中でもひときわ明るい部分を指差した。
これから行われる宴のために浮かべられた何千という数のろうそくの光が、ステンドグラスから漏れ出ている。
「今はきれいだけど、こーんな大きな穴があいていたんだ」
コリンは興奮ぎみに両手を広げ、全身を使って大きさを表現した。
修復を手伝った生徒の何人かが、そうだったそうだったと相槌を打った。
「戦いが終わったあと、みんなで大広間に集まったんだけどさ、ハグリッドの弟だけ入れなくて――うんうん。巨人だからね。で、その巨人が壁の穴から顔を出していたんだよ。僕、口の中にリンゴを投げてあげたんだ」
「へえ。巨人も参戦してたんだ?」
「もちろんそうだよ。ほとんどは敵方だったけどね。踏み潰されないように敵も味方も必死だったよ」
「いまさらだけど、よく勝てたよね」
「勝てて当然だよ。僕らにはハリー・ポッターがいたもの」
コリン・クリービーが隣に座る友人に得意気に話した。
未成年は城から出るようにという指示を無視して戻って戦ったコリンは、同級生の中ではちょっとしたヒーローだ。
汽車の中でも、避難をしていた友人たちなどに囲まれ、話をせがまれていた。
同じく未成年ながら戦ったジニーがあまり多くを語ろうとしなかったということもあり、馬車を降りてからはコリンを取り囲む輪はさらに広まった。
*
「あの子、いい記者になるわね」
コリン達から少し離れた後方で、ハーマイオニーが言った。
「日刊預言者新聞のどの記者よりも情報通よ」
「ハリーに関しては特にね」
「入学してからずっと追いかけてたんだもン。当然だよ」
ジニーとルーナが同意した。
ジニーはともかく、ルーナまでもが当然だと言い切ったことにハーマイオニーは驚いた。
コリンもダンブルドア軍団に入っていたが、活動中の写真撮影は禁止されていたし、ルーナとの接点はほとんどないはずだ。
そんなハーマイオニーの心情を知ってか知らずか、ルーナは「有名だよ」と続けた。
「彼、ハリーファンクラブの会長なンだよ」
「会長?」
「ハリーファンクラブ?」
ハーマイオニーとジニーは顔を見合わせた。
ハリーがいろいろな意味で人気があったことは知っているが、ファンクラブなんて聞いたことがない。
ルーナの口調はいつもの空想生物の説明をするときと同じで、2人はにわかには信じがたいと思った。
「レイブンクローにも何人かいるよ。ハリーの写真を譲ってもらったって喜んでいるところも見たことあるよ」
「え、ハリーの写真が出回っていたの?」
「そうだよ。2人はハリーと仲がいいから必要ないと思うけど、写真だけでもって思う人はいっぱいいるンだよ」
「でもそのことハリーは知らないわ」
「そうよ。本人に内緒でなんてよくないわ」
「うーん。私はその子達の気持ちもわかるなあ。私だってしわしわ角スノーカックの写真があれば欲しいもン」
ハリーは珍獣じゃないとジニーは言い返したが、ルーナは聞いていていないようだった。
「でもコリンが戻ってきたのはハリーを見るためじゃないよ。戦うためだよ」
「それはわかってる」
「あれ?」
話しながら玄関ホールを通り抜ける途中で、突然ハーマイオニーが足を止めた。
ジニーとルーナもハーマイオニーの視線を辿り、「あ」と声を出した。
大理石の階段の上方に、見知った姿がある。
深緑色のローブに身を包み、新調した三角帽をかぶり、新入生を迎える準備をしているミネルバ・マクゴナガルと、もう1人――
「ユイ!?」
3人の声が重なった。
ユイの名前が出たことで、玄関ホールがざわついた。
「どこだ?」「来ているのか?」「もしかしてハリーも!?」と生徒達が団子状態になって辺りを見回し始める。
ユイは慌てて3人に向かって静かにするようジェスチャーをとった。
「そうだよ。ユイと一緒にスノーカックを探しにいく約束をしたんだ」
「え?突然何――」
「なんだいつものルーニーの空想か」
「もたもたしていると新入生が来てしてしまいますよ!」
気を利かせたルーナの言葉とマクゴナガルの注意で、ざわつきながらも人の流れは再び大広間へ向かった。
ハーマイオニー達3人も一度は大広間方面へ歩きだしたが、トイレに行くふりをしてすぐに抜け出してきた。
マクゴナガルに睨まれたが、ジニーは「少しだけ」と言ってユイに話しかけた。
「もう1年通うことにしたの?」
『ううん。違うわ』
「じゃあどうしてここに?」
『実はね』
ユイは声をひそめて3人に耳打ちした。
***