死の秘宝

□34.甦ったプリンスと眠り姫
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朝の光は、新しい世界を一様に照らした。

歓声が上がるホグワーツ城の笑顔を温め、穏やかな風の模様を刻む湖面を輝かせる。

真っ暗だった禁じられた森にも生い茂る葉の隙間から柔らかい光が差し込み、死喰い人や吸魂鬼が徘徊していたホグズミードからも闇を追い出した。

少し離れた場所にぽつんと建つ叫びの屋敷では、四角く切り取られた朝日が、埃っぽい室内に光の帯を作っていた。


スネイプは眩しさに目を細めながら光の中に横たわったまま、たったいま起こったばかりの事について考えた。

夢にしてはリアリティがあった。

しかし、現実に起こったことだと考えるにはあまりにもありえないことばかりだ。



「リリー……」



彼女が自分を許すはずがない。

そう思っているにもかかわらず、なぜかスネイプの心はとても晴れやかで、穏やかだった。

懐かしさや切なさ、暖かさが入り混じった不思議な気持ちだ。


それにしても眩しい。

スネイプは腕を上げ、庇をつくって光を遮った。

袖が下がり、手首に出てきた腕輪が鈍く光を反射する。


その瞬間、スネイプは雷に打たれた。

どうしてこんな大切なことを忘れていたのか、スネイプ自身もわからなかった。

自分は戻ってきてはいけなかった。

扉を開けてはいけなかった。

あのまま自らが死の世界に留まるべきだったのだ。

リリーがいた時点で、あの場所がどんな場所なのか、気づくべきだったのに――。



「ユイ!」



スネイプは跳ね起きた。

頭がクラクラする。

おまけに直前まで日光を見ていたせいで、暗い室内が目に慣れるまで時間がかかった。

もちろん目が慣れたからといって、そこにユイの姿があるはずもない。

代わりにスネイプは、部屋の隅にあるソファに、クィレルの姿を見つけた。

ことさら暗いその場所で、クィレルはスネイプを見ていた。



「生き返って早々に口にしたのが別の女の名前とは、ユイも浮かばれない」

「違う、――それより、これはいったいどういうことだ!」



スネイプはクィレルの襟首を掴み、ソファから引き上げた。



「壊せ、と言ったはずだ」

「承知したとは言っていない」

「我輩はしかとこの目で――」

「幻覚でも見たのでは?」



クィレルはスネイプと視線を合わせることはなく、淡々と感情のない声で返事をした。



「私は彼女に忠実に生きると決めた。お前の命令ごときで彼女の命令を無視するわけにはいかない」

「そのせいであの子が死んでもか!」

「もちろん。そういう約束だ」

「貴様は――」

「お前にとやかく言われる筋合いはない!」



クィレルが叫んだ。

勢いよくスネイプの腕を払い、逆にスネイプの襟首を掴み上げる。



「スネイプ、お前もダンブルドアに自分を殺すよう言われたとき、一度は承諾しただろう。ユイが代案を出さなければ、実行に移していたはずだ」

「それは、」

「ダンブルドアもお前もユイも私も、それぞれがそれぞれの目的のために行動したまでのこと」

「だからといってあの子が犠牲になることはあるまい!」

「ではどうすればよかったと?」

「我輩が死ぬ、彼女は助かる。それでよかったはずだ!」

「“お前は”そうだろうな、スネイプ。だから何もわかっていないと言われるのだ。……これ以上何を言っても無駄でしょう」



クィレルはため息をついたスネイプを放した。

急に自由が戻ってきたスネイプは、わずかによろめいた。



「ユイが身を挺してまで救いたかった命だ。せいぜい大切にすることです」



バチンという音を最後に、あっという間にクィレルは姿を消した。




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