死の秘宝
□15.冬のアリア(前編)
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クリスマス休暇が始まり、ユイはホグワーツを離れた。
本音を言えばスネイプと一緒に学校に残りたかったのだが、生徒達は汽車の予約の有無に関わらず半強制的に帰省させられた。
駅までの間、生徒たちは寮、学年ごとにまとまって隊列を組んで歩いた。
教職員が付き添い、静まり返ったホグズミード村へと入る。
ちらほら見える人影はみな黒い衣装を纏っており、フードの下から生徒たちをジロジロと陰湿な目で見ていた。
「あいつらみんな死喰い人の手下だ」
ドラコがユイに言った。
「下っ端のやつらだけどな。見張ってるんだ」
『ハリーが来ないかどうかを?』
「それもある。あとは外部と連絡を取り合おうとしている怪しいやつがいないかだとか、だな」
前回のホグズミード休暇で聞いたのだと言い、ドラコは今の村の状況を細かく説明した。
話を聞く限りでは、今のホグズミード村は、ほとんどノクターン横丁と変わりがないように思えた。
吸魂鬼が上空をうろついている分、こちらのほうが性質が悪いかもしれない。
村人達の半数がすでにこの村を去っていると聞き、ユイはふとホッグズ・ヘッドに隠れ住んでいる2人のことを思い出した。
あの作戦の日から、ユイはシリウスともクィレルとも一切連絡を取っていない。
それはもちろん下手に接触をするのは死んだことになっている2人に危険を及ぼす可能性があるからなのだが、忙しい日々に追われているうちにいつの間にか日が経ってしまっていたということもある。
(心配、してるよね……?)
守護霊のユニを走らせるなどして、無事を知らせればよかったと今になって思う。
自棄を起こしたり無茶なことをしたりしていなければいいが、2人とも無茶無謀の代名詞のようなものだ。
原作の情報がない分、まったく予想がつかない。
(私、裏切り者認定されていたりして)
マッド-アイ達を守るためとはいえ、情報を死喰い人に流したのはユイだ。
あの激戦の中、突然姿を消せば疑われても仕方がない。
加えて結婚式では死喰い人側としてパーティ会場を襲ったところを見られている。
シリウスとクィレルがユイを疑うことはないだろうが、そのせいで他のメンバーと衝突を起こしていたら……と心配は尽きない。
ジニー達の様子を見る限りでは杞憂に終わりそうだが、スネイプがどこまで記憶を消したのか定かではないため、安心はできない。
(もしかして……)
汽車に乗り込み、遠ざかる村を窓から見ながら、ユイは思った。
スネイプがユイをホグズミードに行かせなかった理由はこれなのではないかと。
自意識過剰かもしれないが、シリウスやクィレルの件がなければ、ユイをホッグズ・ヘッドに送り込み、情報を得てくるよう指示をしてもおかしくないはずだ。
(早めに帰ってきてホッグズ・ヘッド寄ろ)
今現在の騎士団の情報はまったくない。
ジニーに教えてもらったラジオのチャンネルで、何人かの声を聞くことはあったが、ユイが聞いた限りではシリウスもクィレルもラジオに登場することはなかった。
2人が危険を冒してでもここに留まっているのだとしたら、せめて無事であることは伝えたい。
学校の様子や、ハリー達のことで知っていることを少しでも話せば、シリウスも安心するだろう。
「そんなに凝視して……来たかったなら罰則を変えてくれるよう頼めばよかったじゃないか」
『うん……』
「まあ、来たところで去年ほど楽しいものじゃないぞ。現に先週だって――」
『うん……』
ずっと話を続けていたドラコは、ユイが上の空なことに気づき、不機嫌になっていたが、ユイはそれすら気づかず遠ざかる村や城をぼーっと見ていた。
***