死の秘宝
□03.闇の帝王、動く
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雲の隙間から申し訳程度の月明かりが顔を出す夜だった。
夜の闇に紛れて、雲から黒い煙のような渦が延びてきた。
渦から現われ、難なく着地をしたスネイプが、長いマントをはためかせながら杖を振り上げる。
侵入者避けが施された壮大な鍛鉄の門は、突き出された左腕に反応し、霧のようになってスネイプを中に招き入れた。
真っ直ぐに延びた馬車道の奥の暗闇に、洒落た洋館が姿を現す。
玄関へと脚を早めたスネイプの足元で、砂利が軋んだ。
スネイプが玄関に近づくと、人影も無いのに錠が開き、ドアが突然内側に開いた。
明かりをしぼった広い玄関ホールは、豪華なカーペットが石の床をほぼ全面にわたって覆っている。
かつては所狭しと高価な品々が来訪者を出迎えたものだったが、スネイプの知る限りでもそれらの数は半分近くに減っている。
いわくつきの調度品の多くは前年の魔法省の監査で応酬され、華美すぎる物はどこかへとしまわれている。
それでも柱や壁など建物自体に施された装飾などが、ここがいかに贅沢な館であるかを物語っていた。
まるで地下のように薄暗い通路を通り、スネイプは石造りの階段を上った。
たどり着いた客間は、日常置かれている家具が無造作に片側の壁際に押しやられていた。
家具がある壁とは反対側、暖炉がある壁際には、装飾を凝らした長テーブルが1列だけ置かれている。
ざっと30人くらいだろうか。
長テーブルは黙りこくった人々で埋められていた。
スネイプはしばらく部屋の入り口にたたずんでいた。
玄関ホール同様に明かりはしぼられ、シャンデリアのろうそくは半分もつけられていない。
全員が黒い服を着ており、数名のブロンドの髪が暖炉の光を受けて明るく見えるだけで、部屋全体が暗緑色に覆われていた。
ここまではいつものことだった。
薄暗さに目が慣れてきたスネイプは、いつもとは違う、異様な光景に引きつけられ、視線を上に向けた。
奥のテーブルの上に、人が仰向けの状態で浮かんでいる。
虫の息のそれは、スネイプも見知った人物だった。
目が合い、スネイプは一瞬背中が強張るのを感じた。
「セブルス」
驚きが表情に出ないよう、ぐっと腹に力を入れたところで、近くの席から声がかかった。
スネイプはテーブルの先に浮かぶものから目を背け、声の主を見た。
家長が座るべき場所に座っているのは、もはやルシウス・マルフォイではない。
ルシウスはテーブルの中ほどに、暖炉を背にしてドラコとナルシッサと一緒に座っている。
「遅いので道に迷ったかと思ったぞ」
機嫌がいいらしく、冗談めかしてヴォルデモートが言った。
「来い、お前の席は空けてある」
ヴォルデモートは自分の左手側の席を示した。
ヴォルデモートの片腕として最も信頼されている証の席につくスネイプを、いくつかの妬みの視線が追った。
「情報を持ってきただろうな?」
「来る土曜日の日暮れに、決行されます」