死の秘宝
□01.贈り物
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ダンブルドアという偉大な魔法使いを失い、魔法省は新体制が整うまで学校の安全を十分に確保できないという判断をした。
そのため、ホグワーツは夏季休暇中完全に封鎖されることとなった。
教職員がみな実家に帰り、ゴーストとしもべ妖精だけが残されて1週間。
月夜の晩に黒い影が1つ、敷地内の最も北にある塔から出てきた。
影はすばやく庭を横切り、すぐに城の中へと消えた。
城内はひっそりと静まり返り、階段を降りると月明かりも届かなくなる。
点々と灯る松明の灯りによって、男の影が廊下へ長く伸びた。
イスにもたれかかってうとうととしていた老紳士の絵画は、あるはずのない影が目の前を通ったことに驚き、身を乗り出して額縁の先を見ようとした。
巨大なコウモリのような黒い影が、角を曲がって消えるところだった。
影の主は慣れた道のりを素早く移動し、かつて自分が教室として使っていた地下牢と隣接する部屋に入った。
「ルーモス」
低く小さな声が、シンと静まり返った室内に響く。
鍋も、秤も、材料を刻む小刀も使われた形跡がない。
ガラス瓶の上にほんの少しだけ積もった埃を見て、男はすぐに廊下に戻った。
カツン、カツンと、石造りの壁や天井に足音が反響する。
闇に同化しつつある男は、壁に隠された入り口から寮の中に入り、無人であることを確認すると小さくも長い息を吐いて再び廊下に出た。
それから男は階段を上った。
ガーゴイル像の裏に隠された螺旋階段を上った先にある部屋に入れば、数週間前と変わらず使い道のわからない数多くの魔法道具が置かれていた。
窓から差し込む月明かりが、それら1つ1つをキラキラと輝かせている。
男は壁に掛けられた真新しい絵画に向かって歩いた。
唯一カーテンが掛けられていないその絵は窓際にあったため、男の全身がようやく明るみに出た。
が、相変わらず影のような姿だった。
「新しいお住まいはいかがですかな、校長」
「実に快適じゃよ、セブルス。この椅子も君の魂のようにツルピカじゃ。1つ難点を言うとしたら、お気に入りのぜんまい時計がここから見えないということくらいじゃ」
ダンブルドアは髭を揺らし、眉間に皺を寄せている男――セブルス・スネイプの背後を見た。
「1人のようじゃの」
「何か問題でも?」
「いや、いや――ところでセブルス、わしからのプレゼントは気に入ってくれたかの?」
「奪っていたものを本来の持ち主に返すことを“プレゼント”とは言いません」
「歳を取ると語彙力に乏しくなってしまってのう」
睨みつけるスネイプに向かってダンブルドアは飄々と言った。
「その様子だと、贈り物の内容をあの子にはまだ伝えていないようじゃな」
「知らなくとも良いことです」
「まだ君はそのようなことを言っておるのか。何のためのプレゼントだったと思っている。君が望めばわしは君の知りたがっていることを教えることができると思うのじゃが?」
「……」
「絵画の情報網は広く早い。不審な男が地下をうろついていると――」
「ダンブルドア」
「――なんじゃ?」
苦虫を噛み潰したような表情をしているスネイプを前に、ダンブルドアは楽しそうに微笑んだ。
ダンブルドアの説明を遮ってまで、スネイプが何を聞きたがっているのか、ダンブルドアにはわかっていた。
わかっていたからこそ、途中で遮られたことにも不快感は示さなかった。