謎のプリンス
□24.出発
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次の日、ユイは昼過ぎにスネイプの部屋を出た。
結局一睡もできなかった。
ただ、毛布にくるまって丸くなっていたユイの耳に届く、カチャカチャ、コポコポという音のおかげで幾分か気持ちは軽くなっていた。
「では、夜に」
完成した薬を手渡しながらスネイプが言った。
その表情からは何も読み取れない。
『ありがとうございます』
ユイは微笑み、頭を下げた。
廊下には昼食から帰ってきた生徒達や休日の午後をのんびり過ごす生徒達で溢れかえっていた。
誰かに「今日の昼食に糖蜜パイ出てたよ」と声をかけられたが、ユイは返事だけをして自分の部屋に向かった。
熱いシャワーを浴び、着替えて部屋を片付け、すぐに部屋を出る。
それからユイは8階へ急いだ。
廊下には少ないながらも生徒がいて、ユイは誰もいなくなるまでしばらく待たなくてはいけなかった。
30分ほどしてようやく必要の部屋の中に入れたが、そこに人の気配はなかった。
談話室にいなかったため、てっきりここかと思ったのだが、どうやら見当違いだったようだ。
『まさか今日じゃなかったりして……?』
それは最悪なパターンだ。
ユイは山のように積みあがった品々の間を縫って、姿をくらますキャビネット棚のところまで行った。
かけられた布を外し、キャビネットの取っ手を引いてみる。
蝶番がわずかに軋み、戸は難なく開いた。
『そりゃそうよね』
“完成した”と、リドルは言っていた。
あとはドラコが確かめる勇気を持つだけだと。
『待ってれば来るよね』
ユイは部屋から持ち出した小さなぬいぐるみをカバンから取り出し、どう指示を出すべきかを考えた。
スネイプに役目を任されたまではいいが、浮かれている場合ではない。
ユイが騎士団に指示をすることで、8階でドラコ達が一網打尽になっては困る。
それに、ビルがグレイバックに襲われるという事件が起きなければ、ビルとフラーの結婚も、リーマスとトンクスの恋愛も進まなくなってしまう。
もともと全てがギリギリで上手くいっていた展開だ。
下手に手を加えることで総崩れになってしまっては困る。
かといって、何もしなければ原作通りになるとも限らない。
『間違いなくシリウスは来るわよね……』
ホグワーツを護るための戦いに、シリウスが来ないわけがない。
もしかしたらセドリックも来るかもしれない。
原作ではいなかった人物が加わることで戦いがどうなるかは、想像しようがなかった。
ハリーがロンに幸運の液体を渡すだろうから、DAと不死鳥の騎士団のメンバーが予定外のダメージを負うことはないだろうが、人数が増える分、死喰い人側が不利になる。
もし逃走が上手くいかなかったら――なんて、考えたくもない。
『そうか、幸運の液体!』
反則的ではあるが、こちら側に影響が出ないようにするためには、ユイが幸運の液体を飲むのが手っ取り早い。
そうすれば、どのタイミングでどう指示出しをすればいいのか、無駄に悩まずに済む。
ハーマイオニーが言う、“状況をちょっとひねる”からも逸脱しないだろう。
そうと決まればさっそく――と思ったとき、ユイの目の前でドアが開いた。