謎のプリンス

□23.前夜
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『あーっ!!』という大きな声が大聖堂のような天井に響いた。

黙々と作業をしていたドラコは、驚いて声が聞こえた方向に顔を向ける。

壊れた家具類が積み上げられて、声の主の姿は見えない。

「どうした?」と山に向かって聞くと、『なんでもない!』という声が返ってくる。

やけに弾んだ声だ。

何か問題が起きたわけではなさそうだと考え、ドラコは目の前のキャビネットに集中し直した。


一方、山の反対側では、ユイが狂喜乱舞していた。

ユイの目の前には、酸をかけられたように表面がボコボコになった大きな戸棚があった。

戸棚の上には醜い魔法戦士の欠けた胸像。

頭には埃だらけの古いカツラと黒ずんだティアラがある。


(あったー!)


ずっと探していたものをついに見つけた。

逸る気持ちを抑え、ユイはキーキー軋む戸を順番に開けていった。

1つ目の小さな戸の中は、宝石類でいっぱいだった。

盗品なのだろう、乱雑に置かれた指輪やブローチには、本来の持ち主を示すイニシャルや家紋らしきものが記されているものもある。


2つ目は空だった。

何年も前のクモの巣が、隅でフワフワと漂っている。


そして3つ目。

戸を開けてすぐに“これだ”とわかった。

檻が隠してあり、中には5本足の動物の骨がある。

ユイは檻を横にずらし、奥にあるボロボロの本を引っ張り出した。

“上級魔法薬学”と書かれている見慣れた紫色の面をひっくり返し、裏表紙をそっとめくると、下のほうに小さな字で“半純血のプリンス蔵書”と書かれているのが確認できた。


(ふふふ……)


パラパラとめくってみたページは、どこも書き込みでいっぱいだった。

縦に横にと隙間を見つけてはメモを取っており、活字を線で消して行の隙間に訂正もしてあるおかげで、余白が本文と同じくらい黒々としている。

それなのに1つとして雑な字は見当たらず、持ち主の神経質さが窺えた。


(って、これ見つけてニヤついている場合じゃなかった!)


ユイは背表紙についていた埃を丁寧に払って本をカバンにしまい、戸棚の上に視線を戻した。

真ん中に大きな青い宝石がはめ込まれ、左右にはダイヤが幾重にも曲線を描いている。

青い宝石の上に鳥の頭のような装飾があるため、ちょうど鷲が翼を広げたように見える、凝ったつくりのティアラだ。

額に当たる部分には文字が刻まれており、汚れを擦って落としてみると、「計り知れぬ英知こそ、われらが最大の宝なり」という文が出てきた。

間違いなくレイブンクローの髪飾りだ。


(持ち出して大丈夫かな?)


分霊箱はヴォルデモートの魂の欠片であり、どれも人の心を支配する力を持っている。

日記を持っていたジニーはリドルにいいように操られ、指輪をはめたダンブルドアは死の呪いを受けた。


(執着心をもたなければっていっても、何かあってからじゃ遅いし……)


ロン達は“ただ持っていただけ”で影響を受けている。

ユイはガラクタの塔を回ってドラコがキャビネットに夢中になっていることを確認して、日記の切れ端を取り出した。



――このティアラ、変な呪いかかってない?

――知らない

――頭につけなきゃ大丈夫よね?

――さあ



ユイが小さいスペースに一生懸命質問を書いても、リドルから返ってくるのは一言のみ。



――安全な場所に移動したいんだけど、いいよね?

――勝手にすれば?

――じゃあそうするわ



ジニーやハリーに丁寧な返事をしていた人と同一人物だとはとても思えない。

ユイは拒否されなかったいことを理由に、背伸びをして胸像からティアラをはずし、プリンスの本と同様にカバンの中にしまった。




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