謎のプリンス
□09.幸運の液体
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防衛術でのユイとスネイプの決闘の話は瞬く間に広がり、昼食時には多くの目がユイとスネイプの間を行ったり来たりしていた。
噂好きのホグワーツ生は、いつもいろんなひれをたっぷりつけて話を大きくする。
そのため、ユイの昼休みの大半が噂への受け答えに費やされた。
「で、どの話が本当なの?」
談話室に戻ってきてから、パンジーが聞いた。
「スネイプ先生に逆らって見せしめに闇の魔術かけられたってのはウソでしょ?」
『ウソに決まってるでしょ。誰よそんなありえない噂を流してんのは』
「じゃあ授業を使っていちゃついてたってのは?」
『ぶっ!やめてパンジー!本人の耳に入ったら一大事だわ!』
「へえ、否定はしないのね」
『しなくてもわかるでしょう!?どうしてそうなるのよ!』
「だって、あなたすごく嬉しそうだもの」
パンジーはドラコの腕に手を絡めながら「ねえ?」と同意を求めた。
宿題のために本を読んでいたドラコは、顔を上げて数秒ユイの顔を眺め、「そうだな」と言って本を閉じた。
「あれだけ容赦ない攻撃を受けて喜ぶとか、お前おかしいんじゃないか?」
ドラコは時計を見てパンジーの腕をほどきながら立ち上がった。
もうじき午後の授業が始まる。
ユイはドラコの後ろに続き、魔法薬学をとっていないパンジーは、名残惜しそうにドラコの後姿を見送った。
*
「くだらないな」
談話室を出るなり、ドラコが言った。
「まだあの人に熱を上げてるのか?父上を陥れたやつだぞ?」
『だからそれは違うって言ったでしょ』
“あいつ”呼ばわりこそしなくなったものの、ドラコはまだスネイプに対してよくない感情を抱いているようだった。
ユイのいないところでスネイプの悪口を言っていたという話も聞く。
ユイの前では気を使ってくれて控えてくれているのだろうが、複雑な気分だ。
『それにさっきの話だけど、嬉しかったのは怒っていないってわかったからよ』
「ふうん。せいぜい利用されないようにするんだな」
『そんなことする人じゃないわ。ドラコだって分かるでしょう?』
「さあね」
『もう――ドラコ最近冷たいよ?パンジーがかわいそうだわ』
「ふん、余計なお世話だ」
廊下にすでに何人か並んでいるのを見てドラコは止まり、少し距離を取ったところで教室が開くのを待った。
ハリー達がまだ来ていないため、教室の前にはまだ10人の生徒しかいない。
スリザリンからはユイ、ドラコ、ザビニ、ノットの4人、レイブンクローも同じく4人、ハッフルパフとグリフィンドールからはそれぞれアーニーとハーマイオニーの1名ずつだ。
ラベンダーの姿は見えない。
間もなくして教室のドアが開き、スラグホーンが腹を先にして教室から出てきた。
案内された教室は、少々埃っぽかったが、広くて明るかった。
生徒がたった10人しかいないため、ずいぶんと閑散とした印象を受ける。
スラグホーンがザビニに特別熱い挨拶をし、いよいよ授業開始――というところで、ハリーとロンが飛び込んできた。
「ああ、ハリー。遅いので心配したぞ。お連れもいるようだな」
歓迎するスラグホーンとは対照的に、ドラコは「目立ちたがりやめ」と分かりやすく舌打ちをした。
「ロン・ウィーズリーです。僕、魔法薬はおっそろしく下手で……だからやっぱり……」
「何を言う。ハリーの友人は私の友人だ。教科書を出して」
「あの、まだ、教科書を用意していないんです――ロンも」
「じゃあ棚にあるのを使うといい」
スラグホーンは入り口脇にある棚を指差し、机の上に準備された鍋の中身についてと話を戻した。