不死鳥の騎士団

□5-11 開心術
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閉めると言ったはずの部屋に残り、ろうそくの火を消して闇に包まれた空間で、スネイプは立ち尽くした。


(我輩は何をしたかったんだ……)


ユイが夕食後に部屋に現れなかったからといって、スネイプが迷惑を被ることなどない。

にも関わらず、わざわざ自分の方から寮へ出向き、様子を尋ねるなどどうかしている。

それだけではなく、罰則を実施している別の教師のもとから連れ出すなど、正気の沙汰とは思えない。


アンブリッジとは関わりあいを持ちたくなかったのに、しっかりと印象付けさせてしまった。

明日になれば早速、どういう罰則を科したのか聞いてくるだろう。

効果に納得がいかなければ、アンブリッジは自分なりの罰則を再開する。

毎晩ポッターと一緒に手を切り刻まれるのを容認するわけにはいかない。


考えながら、無意識に手が頬に触れていることに気づき、スネイプは眉間に皺を寄せた。

ここ2ヶ月の間で、“家族”という空間にすっかり慣れてしまった。

帰宅すれば笑顔で迎え入れられ、とりとめのない会話をしながら一緒に食卓を囲む――。


そんな生活は、はるか昔に遡っても、した覚えがない。

ユイがいることで、スネイプは居心地の良い空間を手に入れることが出来る。


(邪魔はさせん)


リーマスもシリウスも、もちろんクィレルも、近づかせる気は毛頭ない。

アンブリッジの罰則をよしとしないのも、自分の所有物に傷をつけられるようなものだからだ。

お気に入りの本を破かれたら腹が立つ。

きっと、それと同じだ。

そう、スネイプは結論付けた。


(しかしどうしたものか……)


閉心術のことをアンブリッジに話すわけにもいかない。

だからといって、ユイに鍋洗いや材料準備を手伝わせたところで効果はない。

他の生徒ならこの世の終わりのような顔をする罰則でも、ユイなら喜んで飛んでくるだろう。

ユイは良くも悪くも、他の生徒とは違う、変わり者だ。


(となれば、あとは……)


スネイプは、逆転の発想を試みた。

何をやらせてもユイが懲りないのは、ひとえに魔法薬学に関わることが好きだからだ。

であれば、魔法薬に関係する権利を剥奪すればいい。







「閉心術の訓練が始まる1週間後まで、我輩の研究室および地下牢教室に授業以外で来ることを禁じる」

『なっ……!』



次の日、開口一番に罰則の追加を告げたスネイプは、ユイが青ざめるのを見てニヤリと笑った。

これでアンブリッジに口を出されることもなければ、ユイが防衛術の前任者の名前が上がるたびに反抗するような馬鹿な真似もしなくなるはずだ。



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